自分のやり方で、自分の生き方を - イントゥ・ザ・ワイルドの感想

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自分のやり方で、自分の生き方を

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
4.0
音楽
4.5
演出
5.0

目次

裕福な家庭で育ったクリスは、全財産を貧しい人のために寄付し、身分証も捨て、アラスカへ向けて放浪の旅に出る。物質過剰な世の中や、キャリア志向の人たちに嫌気がさしていた。クリスは必要最小限しか働かず2年間放浪し、最終的にはアラスカの大地で3か月以上も暮らした。ライチョウやヘラジカを狩ったり、大自然の中で立派に生活した。

主にクリスの思想に影響を与えたのは、自給自足の生活をしたヘンリー・D・ソロー、私有財産を否定していたトルストイ、アラスカについての著書を多く持つ小説家ジャック・ロンドンの3人である。

本当の親孝行とは何か

たった一人で放浪したクリスだが、人とのつながりを軽視していたわけではなかったように思う。むしろ、自ら積極的に人と関わって、楽しく交流していたように見える。旅の過程でたくさんの人と出会い、その中の数人には後に手紙を送っている。アラスカの過酷な大地で、自分自身しか頼れない状況で生きることにこだわっていたのだと思う。ジャック・ロンドンの本には、本当に過酷なアラスカの実状が書かれていて、それを読んでアラスカを夢見たクリスは、本当に勇敢だと思う。しかし、クリスを批判する声も少なくない。

 クリスは家族に何も告げずに旅に出て、一切連絡を取らなかったため、両親はずいぶん心配した。親に心配をかけたことで、クリスを批判した人も多くいたようだが、その批判は的外れだと思う。親に心配をかけることは、必ずしも親不孝だとは思わない。

親は子供に何を望むのだろうか。多くの親は、子供の幸福を願うのだと思う。大半の人がそうするように、普通に就職して、出世をすれば、親としては安心かもしれない。しかし、他にやりたいことがあるのに出来ないという不満を抱えながら生きることは、決して幸せではない。人生に悲観することは何よりの親不孝だ。自分の人生を徹底的に生きるためにも、やりたいことはやるべきである。親に心配をかけることは、確かに良くないことかもしれない。しかし、親に心配をかけることになってしまったとしても、本当にやりたいことがあるのなら、それを追求するべきだと思う。この世に生まれてきたことを無駄にしないためにも、やりたいことに挑戦して、思う存分生きなければ。やりたいことや信念を貫いて、周囲の眼や世間の声を気にせず突き進む、そういう点では、クリスも他のジャンルで大成している人たちと同じだ。本当にやりたいことを諦め続けて、惰性の毎日を過ごすのは、たとえ親に心配をかけていないとしても、親不孝である。

自分のやり方で、自分の生き方を

また、クリスがヒッチハイクをしたり、電車に乗ったりすることについて、文明から抜けきっていないと批判する人もいる。旅に出るのは自己満足、社会でもたくさんのことが経験できると批判する人もいる。電車には無賃乗車をしていたので、それについては批判されても仕方がない。しかし、クリスは必要以上に着飾ったり、まだ使えるものを捨てて流行の新品を買うといったことを批判していた。あくまでも、物質“過剰”を批判していただけだ。なので、ヒッチハイクをすることは、決して彼の思想と矛盾していたわけではない。仮に矛盾していたとしても、一人の人間の中には矛盾がいくつも存在するものだ。それが普通というか、自然なことだと思う。また、人の思想というものは他人に伝えきれるものでもない。人から見て完璧である必要なんて全くない。自分の思いに従って、自分なりの方法で、自分の生き方を追求することが大切だ。

クリスは成績も優秀で、経済的にも恵まれていて、社会に出ても立派にやっていけただろう。しかし、能力を活かすことよりも、自分が望んだ生き方をすることの方が大切だと思う。社会でそれなりに出世して、傍目からは成功したように見えても、本人の中に違和感があったら、意味がない。大自然の中で原始的な生活がしたい人と、文明社会に出て成功したい人では、生き方が違って当然だ。社会に出て、出世して、大金を稼いで、地位を築きたい人はそうすればいい。それを否定するつもりはない。他人の生き方を否定する権利は誰にもないはず。

文明社会の中で生きている人の中にも、彼のような冒険を夢見ている人は案外多いのかもしれない。しかし、それを実行に移せる人が、いったいどれだけいるだろうか。ほとんどの人は、荒野でたった一人で生きるなんて無理だと最初から決めつけたり、怖くて萎縮している。財産を手放す度胸もないだろう。自分もその一人。クリスの何よりも素晴らしい点は、自分の望んだ生き方を実行したことにある。別に旅に限った話ではない。世の中には、やりたいことがあるのにやろうとしない、挑戦する前から諦めている人がたくさんいる。そして、人生は思い通りにいかない、そんなものだと自分に言い聞かせ、ごまかしている。そのような大多数の人と比べて、クリスがいかに立派であるか。何をするかなんて重要ではない。自分から行動することが大切。本や映画から学べることはたくさんあるけれど、自分から進んで経験しないと、自分のものにはならない。完璧である必要はない。自分なりの方法で、自分の人生を追求することだ。

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