こころの考察
西洋の思想と『こころ』
夏目漱石のこころは主人公先生の心情が、他の登場人物の心情と食い違っているところを上手に表現した作品である。
わたしは、Kが自殺したことに対して、「自分のせいだ」と感じているが、実際のKは、自殺の原因は、自分の信じてきた道と外れたことをしてしまった、つまり恋をすることで、自分の信じた宗教の道徳に反することだと感じてしまったせいなのである。
主人公の葛藤、それにともなう登場人物の心情、行動の変化は、夏目漱石でなければ書けない力作だといえる。
しかも、この作品の後半は、先生が、「私」に手紙を書いた長い長い物語なのである。だから、実際Kやお嬢さんの本当の気持ちはわからないままなのである。先生が様々な人物の行動を観察して、相手はきっとこう考えているということを考察しているのである。
私は、この先生の性格が、悩みに影響していると考える。こうやって、自分自身の考えではなく、相手がこうだから、自分はこうしなくてはいけないと考えてしまっているから、なにも行動が起こせなくなっているのだと思う。それを、先生は分かっていながらも、なかなか行動できないもどかしさを抱えている。
なぜ、このように先生が考えているのか私なりに考察してみた。先生やKが生きている時代は明治時代である。明治時代は、明治維新とともに西洋の新しい文化や考え方が入ってきた時代でもあるといえるが、それが人々の心に定着するのはまだまだ先の話である。つまり、国家への一体感をもちながら、自由をもとめてもよいという考えがはいってきた時代なのである。そのため、先生たちは、この二つの対立する考えを植え付けられ、ジレンマに陥っている世代だともいえる。そのため、先生もKも、自分に対して感じたことを自由にとらえることが出来ず、一直線に考えてしまっているのだろう。
加えて、Kの方が国家への一体感というのか、思想一筋にとらえているところがある。先生の方は、一筋に考えなくてはいけないけれど、新しい風潮に飲み込まれている風がある。 先生のほうが、新しい明治の思想に対応しているのではないだろうか。
夏目漱石が生きている世代
このことを、夏目漱石は伝えたかったのではなかろうか。新しい思想、自由、そういう西洋の考え方が入ってくるけれども、それに対してうまく対応できない間の世代をうまくとらえていると私は感じる。こうした、最先端の思想を考え、小説にした夏目漱石のこころは、その世代を生きていた人の共感をもったのだろうと考える。自分たちはなにでまよい、なにを考えているのか、どうして、こんなにももどかしいのか…そんな明治時代の人々の葛藤に対して、うまく解説をのべているのである。しかも、この作品は、大勢の目にとまる新聞に掲載されたことからも、多くの反響を得たのだと考えることが出来る。
先生と結婚観
先生は、結婚するとき、お嬢さんのお母さんに、「お嬢さんを私にください」と言っている。
現在の日本の結婚は、恋人同士で結婚をきめ、その後で結婚をお互いの両親に報告することが通常である。
しかし、明治時代においては、両親がまず先なのであって、個人の意思は二の次なのである。お嬢さんのお母さんは、新しい思想をとりいれている人なのであろう。あっさりOKしてくれた。
そのような結婚に対する違いも、夏目漱石はうまく表現している。
文章をよむことによって、その時代の背景や、感じ方、文化などがわかるというのは、とても、感慨深く、納得する作品である。こころでいう先生達の時代が、今日本で考えられている自由のさきがけなのであって、このような風潮がなかったら、私達は今も自由ではなかっただろう。
こころが評価される理由
歴史においても、戦争などなにかの行動がきっかけで人々の行動を変えてしまう。この行動は、素晴らしいものもあり、同時に考えを固縮させてしまう恐ろしいものだといえる。
歴史とは、全てその流れがあって今があるのだといえる。
そのようなことを教えてくれるこころだからこそ、いまでも多くの読者を魅了し、深く考えさせられているのであろう。
現代の思想とインターネット
このように、歴史が変わる瞬間はいつでもある。それを、うまく見つけられるかどうかが大切であり、人の思想に流されていたら、自分も気づかぬ間にその色に染まっているのかもしれない。今でも、自分が正しいと考えていることが、正しいのかはわからない。この作品は、思想について考えていくための良い作品であったといえる。
現代は、インターネットなどで情報が簡単に手に入ってしまう。その情報が正しいとは考えずに、簡単にその文章を信じてしまう。だから、時代の背景を大きくとらえることが難しいと私は思う。これからのインターネットの文章を安易に鵜呑みにするのではなく、感情の赴くように、過ごしていくことができたらよいのだと感じた。
情報というものは、悪にでも善にでもなるものであり、日本人特有の空気にあわせる風潮がかさなりあって、SNSでの悪口、ネット犯罪へとつながっていくのだろう。
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