今日始めて自然の昔に帰るんだ
長井代助
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それからとは、夏目漱石の小説。1909年に東京朝日新聞・大阪朝日新聞で連載されていた。 主人公は、実業家を父に持つ代助。不自由ない生活を送り、学校卒業後も仕事に就かず、実家から金をもらって気ままな生活していた。代助の親友である平岡は、銀行に勤務していたがまもなく辞職させられ、生活に困窮していた。代助は平岡を助けようとするが、結婚後に心臓を悪くしていた平岡の妻・三千代に出会う。代助は彼女に心惹かれてしまい、会う機会を重ねていくが…というストーリー。 描かれたテーマや構成などが似通っているため、この作品とほぼ同時期に発表された「三四郎」「門」とともに、夏目漱石の前期三部作と呼ばれている。1985年には松田優作主演で映画化され、第28回ブルーリボン賞監督賞や第9回日本アカデミー賞など、多くの映画賞を受賞した。 2011年、三上延による「ビブリア古書堂の事件手帖」の作中で取り上げられたことにより、再び注目が高まった。
森鷗外の著作をしばらくぶりに読み終え、今度はかつて貪るように読んだ、森鷗外と並んで文豪と称される夏目漱石が無性に読みたくなり、初期の自然主義と対立した浪漫的な作風の「吾輩は猫である」「坊っちゃん」と学生時代の気分になって読み進み、この2作品ではどうしても消化不良の感じが拭えず、人間としての未知の倫理、モラルを求めて悪戦苦闘した「それから」、「門」、「行人」を再読しました。夏目漱石という作家は、「吾輩は猫である」から始まって、「明暗」に至る彼の文学的な軌跡を辿ってみると、道徳と言う言葉の示すような、何か身動きの取れない、固定的なものではなく、"倫理"とか"モラル"とでも言うような、自分自身で探し求める人間としての"在り様"を文学を通して、生涯追い求めた作家ではないかと思います。中学の英語教師である苦沙弥先生の家に住みついた捨て猫が、この家の家族や、そこに集まって来る"太平の逸民"と称されるインテリ...この感想を読む
30になっても働きもせず、結婚もせず、見合いも断り、親の脛を齧りながら優雅に生きる高等遊民の代助。かつて自分の好きな女性、三千代を友人の平岡と結び付け、その夫婦が戻ってきたことから、また友人の妻に対する恋慕の情が湧いてきます。勝手なヤツだなという印象なのですが、何となく憎めない感じがするのは、漱石の描き方の巧さによるものなのでしょう。結局親とも絶縁して三千代を平岡から奪う形になり、職探さなくちゃなと、出かけていくわけです。どうして最初から、三千代と平岡をくっ付けるような真似をせず、自分が結婚しておかなかったのか、両想いっぽいのに。何だか「人の物が欲しい」そんな感じを受けなくもありません。
漱石の作品が手軽に読める楽しみを味わっています。主人公の感情がとても細やかに描かれていて、とても興味深く読み進めました。やはり「三四郎」「それから」「門」の順で読むのが良いと思います。三四郎よりも面白く感じました。主人公の代助、30にして働かないのもポリシーがあるのです。でも、資生堂で薔薇の香水を買って枕に振り掛けたり、甥にチョコレートをご馳走してあげたり、優雅な生活を見せてくれます。きっと、平岡とその妻が東京に帰ってこなければ、そのまま優雅な生活を送り、父親の決めた人と結婚していたんだろうなと思いました。当時の『金持ち』の優雅な生活を見るのが面白い、そんな小説でした。
長井代助
代助が、三千代に自分の心持を打ち明ける決心を固める場面です。
長井代助
代助が三千代に、告白をする切実な場面です。