「手紙」から分かる私刑の現実ーいつか「イマジン」の世界になることを信じてー
「失敗は成功のもと」は殺人には通用しない
「人は誰でも間違えること、失敗することはある。だから、間違えてもいい。でも、その間違えをきっかけに人は成長しなければならない。」
小さい頃から祖父にそう教えられ、何度も言われてきました。私自身もそう思って生きてきました。
けれど中には、間違えても絶対にしてはならないことがあります。そのことをこの本『手紙』によって痛感しました。
「殺人」という過ちの重みは、何をしても償うことはできません。人にはしてもいい失敗と決してしてはならない失敗があるのです。
人には心があります。道徳があります。幼い子どもでさえ分かります。人間だから分かるのです。人間だから犯してはならないのです。
人の見る目
人間は人と違うことをするだけでその人を見る目が変わります。
どんな学校にも校則は必ず存在しますが、その校則を破り髪の毛を赤く染める生徒がいたら、どんな生徒であろうと、周りの人間の見る目は変わります。たとえどれだけ心の優しい子であろうと、どんなに成績が優秀な子であろうと、人と違うことをすれば世間からの見られ方が変わってしまうのです。
さらに言うならば、体に何かしらの障害を抱えて生きている者は、それを抱えた瞬間から世間からの視線を感じて生きています。
そんな世の中で罪を犯した者が身近にいたら、あるいはその家族がいたら、どんな人間であろうが関わろうとしないのは言うまでもありません。
だから「私刑」という罰は、当たり前に存在してしまいます。「存在しなければならない」と考えた上で罰を与えている人はいないでしょう。そんなに深く考えて人に接するほど、人間は賢くないし、自分のことで精一杯であるというのが現実なのです。
だからこそ、この「私刑」という罰は残酷なのです。
「私刑」の残酷さ
直貴にとって剛志はどんなことがあろうとただ一人の兄であることは変わりありません。そんな兄が犯した罪が、自分への愛情のために起きてしまったものだと知った後、どのような想いに苛まれたのでしょうか。
私には「後悔」以外、想像できませんでした。
一人の人間を殺してしまった兄が原因で、直貴は職業だけでなく夢や恋人も失いました。私がその立場だったら、自殺をしてしまうのではないかと思います。
でも直貴はその状況でさえ十分と言えるくらい苦しいはずなのに、刑務所にいる罪を犯した当の本人である兄から、暗さよりも明るさの方が感じられる手紙を受け取っていたのです。
もしも直貴に「社会的制裁」がなかったら、彼はこの手紙に対して少しは嬉しさを感じられたのでしょうか。良い感情など生まれるはずがありません。生まれてはならないのです。犯罪者の家族は共に苦しまなければならないのです。
これが「私刑」なのだと思うと、私はとても怖くなりました。この兄弟が背負っている罪がどれだけ重いものなのか、痛感しました。
もともと剛志自身、人を殺す気などさらさらありませんでした。強盗でさえ、自問自答するくらいでした。
そんな人間が人を殺したのです。誰がこの間違いを犯してもおかしくはないと言えるのではないでしょうか。
それから私は考えさせられました。自分がこの兄弟と同じ立場になってしまったらどうするのだろうか、と。もちろん私はそんなことが現実に起こるとは思っていません。
でも、もしも本当に家族の誰かが人を殺したら・・・
私は直貴のように少しでもその出来事と向き合うことができるだろうか、ことの重大さを感じることができるだろうか。
きっと私は現実から逃げ出します。戸籍から自分の名前抜いて、誰も知っている人のいない見知らぬ地で生きて行くことを選びます。
家族に犯罪者が出てくるということは、今までの幸せが一瞬にして消えてしまうことを意味します。一人の人間の命を消した瞬間、楽しい食卓や中がいいからこそできる兄弟喧嘩、両親の怒る声、すべてが失われるのです。
「イマジン」の世界を祈って
この世から犯罪がなくなることはないのだろうか。
「欲望」、「憎悪」、人間同士が関わる以上これらの感情が消え去ることはないでしょう。
しかし、だからといって人の命が人の手によって奪われることがこの先もずっとあり続けることを仕方ないと認めてはならない。
今、この瞬間も殺人事件はどこかで起き続けています。
その証拠に私は今日も殺人事件のニュースを見ました。今までの私だったら殺された人間に対して、ただ同情しか生まれなかったけれど今日は違います。
「殺した本人は今どうしているのだろうか。なぜ殺さなければならなかったのだろうか。殺された人の家族や友人はどうしているだろうか」様々なことを考えました。
いつか犯罪が無くなって欲しい。これは普通の人間であれば誰もが望んでいることでしょう。私は不可能ではないと思いたいです。
一人一人の気持ち次第で未来は必ず変わります。
だから私は信じて祈っています。
いつか、「イマジン」という歌のような世界が実現することを・・・。
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