加害者になるということは、どういうことなのか - 手紙の感想

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手紙

4.134.13
文章力
4.25
ストーリー
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キャラクター
4.02
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演出
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加害者になるということは、どういうことなのか

4.04.0
文章力
4.0
ストーリー
5.0
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3.5
演出
2.5

目次

加害者と残された家族

自分の兄貴が加害者になってしまった。加害者の家族となった主人公の直貴。その日から一変する生活と環境、そして世間の風当たり。それでも兄の更生を信じながら真面目に生きていこうとするが、加害者の家族であるという事実が直貴の人生に立ちはだかる。刑務所から送られてくる兄の手紙を読みながら、直貴の兄に対する気持ちや自分の将来について、次第に変化を持ち始める。加害者であることがどういうことなのか、その事実を受け止めているのは牢の中に入っている兄ではなく、真面目に社会で生きようとしている直樹自信であった。世間からの非情なほどの風当たりに、なんでそうなるのだと主人公と同じように思うのだが、加害者になってしまうということはそういうことなんだと考えさせられました。

罪のない人の命を奪った兄の更生への道と、真っ当に生きようとする弟の未来の行く先

家族の生活のために犯罪に手を染め、罪のない人の尊い命を奪ってしまった。家族思いの純粋な気持ちで責任感の強い兄は、自分のしてしまったことに深い後悔と反省を抱く。兄はそうすることで、すべてではないが元どおりになると信じていた。心の拠り所である唯一の家族である弟の直樹に手紙をつづるのだが、自分の更生への誓いと、弟の人生はいつの間にかかけ離れていくものになっていく。弟の人生にとっては兄の更生など、意味がないほど人生は狂い歯車を変えてしまうのだ。そのうち、こまめに手紙を返していた弟も筆を止め、兄はなぜ手紙が来ないのかを考える。兄の答えは、社会人となった弟が忙しくなって手紙を返せなくなったとそう解釈した。しかしそれは違う。弟は兄の存在すらを消そうとしていたのだ。返事をしなければ、兄も諦めるだろうと思っていたが、兄は自分の都合よく解釈し手紙を書き続けた。ふたりの交差することのない想いが、手紙のやりとりに切なく浮かび上がります。

一度罪を犯してしまった人間と、その家族の繋がりの糸

最終的に直貴は、罪を犯してしまった兄と絶縁することを決意します。幾度となく加害者の家族として、社会から拒絶されてきた弟はそのことを最後に兄へ手紙を送ります。兄はその事実に涙ながらも事実を受け止め、自分の考えていた更生や社会復帰の重さを目の当たりし、絶望します。しかしながら、弟の兄へ対する本当の気持ちは、絶縁するという手紙の中から溢れているような気がします。冷たく兄を拒絶する文章から、絶縁を書き綴る文章と同じパワーで、感じ取れるような気がします。そう思った時に、またはじめから読み直してみたくなりました。

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それでも生きてゆくために、加害者家族がすべきこととは

「差別をなくす」のではなく「差別による苦しみを軽くする」には人が罪を犯した時、本人が責められるのは当然だが、その家族まで差別されることは、本来ならあってはならない。親は責められることもあるが、例えば兄弟の場合、同じ親の下に生まれたというだけで、弟が兄の罪を責められるいわれはない。特に弟が未成年の場合なら尚更だ。それでも現実は厳しい。差別は許されないというのが理想に過ぎないことは、過酷な差別の実態を思い浮かべればよくわかる。世間を震撼させた事件で、加害者家族が仕事や結婚をあきらめざるを得なくなり、命を絶つ場合もあると聞く。この小説も例外ではなく、武島直貴は強盗殺人犯の弟というレッテルを張られ、音楽の道や恋愛、やりがいに満ちた仕事を断念せざるを得なくなってしまった。そのような差別に直面しても、死なない限りは生き続けなければならない。ならば、どうやって生きていけばいいのだろうか。差別をなくす...この感想を読む

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4.04.0
  • akiraakira
  • 186view
  • 1050文字

「手紙」から分かる私刑の現実ーいつか「イマジン」の世界になることを信じてー

「失敗は成功のもと」は殺人には通用しない「人は誰でも間違えること、失敗することはある。だから、間違えてもいい。でも、その間違えをきっかけに人は成長しなければならない。」小さい頃から祖父にそう教えられ、何度も言われてきました。私自身もそう思って生きてきました。けれど中には、間違えても絶対にしてはならないことがあります。そのことをこの本『手紙』によって痛感しました。「殺人」という過ちの重みは、何をしても償うことはできません。人にはしてもいい失敗と決してしてはならない失敗があるのです。人には心があります。道徳があります。幼い子どもでさえ分かります。人間だから分かるのです。人間だから犯してはならないのです。人の見る目人間は人と違うことをするだけでその人を見る目が変わります。どんな学校にも校則は必ず存在しますが、その校則を破り髪の毛を赤く染める生徒がいたら、どんな生徒であろうと、周りの人間の見る...この感想を読む

4.54.5
  • 未来未来
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  • 2021文字

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