加害者になるということは、どういうことなのか
加害者と残された家族
自分の兄貴が加害者になってしまった。加害者の家族となった主人公の直貴。その日から一変する生活と環境、そして世間の風当たり。それでも兄の更生を信じながら真面目に生きていこうとするが、加害者の家族であるという事実が直貴の人生に立ちはだかる。刑務所から送られてくる兄の手紙を読みながら、直貴の兄に対する気持ちや自分の将来について、次第に変化を持ち始める。加害者であることがどういうことなのか、その事実を受け止めているのは牢の中に入っている兄ではなく、真面目に社会で生きようとしている直樹自信であった。世間からの非情なほどの風当たりに、なんでそうなるのだと主人公と同じように思うのだが、加害者になってしまうということはそういうことなんだと考えさせられました。
罪のない人の命を奪った兄の更生への道と、真っ当に生きようとする弟の未来の行く先
家族の生活のために犯罪に手を染め、罪のない人の尊い命を奪ってしまった。家族思いの純粋な気持ちで責任感の強い兄は、自分のしてしまったことに深い後悔と反省を抱く。兄はそうすることで、すべてではないが元どおりになると信じていた。心の拠り所である唯一の家族である弟の直樹に手紙をつづるのだが、自分の更生への誓いと、弟の人生はいつの間にかかけ離れていくものになっていく。弟の人生にとっては兄の更生など、意味がないほど人生は狂い歯車を変えてしまうのだ。そのうち、こまめに手紙を返していた弟も筆を止め、兄はなぜ手紙が来ないのかを考える。兄の答えは、社会人となった弟が忙しくなって手紙を返せなくなったとそう解釈した。しかしそれは違う。弟は兄の存在すらを消そうとしていたのだ。返事をしなければ、兄も諦めるだろうと思っていたが、兄は自分の都合よく解釈し手紙を書き続けた。ふたりの交差することのない想いが、手紙のやりとりに切なく浮かび上がります。
一度罪を犯してしまった人間と、その家族の繋がりの糸
最終的に直貴は、罪を犯してしまった兄と絶縁することを決意します。幾度となく加害者の家族として、社会から拒絶されてきた弟はそのことを最後に兄へ手紙を送ります。兄はその事実に涙ながらも事実を受け止め、自分の考えていた更生や社会復帰の重さを目の当たりし、絶望します。しかしながら、弟の兄へ対する本当の気持ちは、絶縁するという手紙の中から溢れているような気がします。冷たく兄を拒絶する文章から、絶縁を書き綴る文章と同じパワーで、感じ取れるような気がします。そう思った時に、またはじめから読み直してみたくなりました。
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