日常をわすれ、おとぎ話にひたる - ミーナの行進の感想

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ミーナの行進

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文章力
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ストーリー
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設定
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感想数
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5

日常をわすれ、おとぎ話にひたる

5.05.0
文章力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
4.5

目次

読んでいて心地よい小説

『ミーナの行進』は2005年に読売新聞土曜版に連載された小説です。各章ごと起承転結があり、連載小説の醍醐味を味合わせてくれるような小説です。

大人になってから、『ミーナの行進』ほど、少女のようなワクワクした気持ちで読んだ小説は初めてでした。あまりにも読んでいる時間が心地よすぎて、読み終えるのがもったいないくらいでした。

ミーナとの出会い

主人公の朋子は、それまで母と2人でつつましく暮らしていましたが、母の事情で1年間だけ、母の妹宅に居候することになります。その母の妹(朋子にとっては叔母に当たるわけですが)の夫は、フレッシーという清涼飲料水を製造する会社の社長で、ロシア人の母と日本人の父とのハーフで、「髪は栗色でやわらかくカールし、背はそこにいる誰よりも高く、彫の深い目元の」ハンサムな紳士として描かれています。

朋子はそのハンサムな紳士のおじさんに導かれ、芦屋にあるおとぎ話のような洋館に連れていかれ、そこで小学生の従妹のミーナと出会います。ミーナは美しい少女ですが、喘息をわずらい、ポチ子というコビトカバに乗って、小学校まで通っています。

ミーナが紡ぐ物語

ミーナは本を愛し、マッチ箱のコレクションの中に、ミーナが紡ぎだすおとぎ話を書いた紙をひそかに隠しています。そのおとぎ話は、ミーナといういつも死ととなりあわせに生きているかよわい少女が紡ぎだしたとは思えない、あるいは、死と常にとなりあわせである彼女だからこそ紡ぎだせたのかもしれない人間の真理のようのもの、心の綾のようなものが描かれています。私は、いくつかあるミーナのおとぎ話の中でも、タツノオトシゴのお話と、天使のお話が大好きです。 

タツノオトシゴのお話は、愛し合っていた2ひきのタツノオトシゴが生まれ変わってばらばらとなってしまいますが、その片割れのタツノオトシゴが、かつて恋人と2ひきでぶら下がっていた月を見ると、なんとなくセンチメンタルになるというお話です。デジャブのような、神秘的な感覚が良く表現されていて、心が澄み渡るようです。

天使のお話は、天使は文字通り天からの使者で、心弾む伝言、辛い伝言、慰めの伝言などを人々に運んでいるというお話です。人間は、全く気付いていませんが、誰でも皆伝言を受け取っており、誰かの声を借りてきこえることもあれば、自分の声で心の中に響いてくることもあるそうです。そして、人は、伝言を受け取った時、微笑んだり、ため息をついたり、涙を拭ったりするそうです。なんだか自分にも思い当たることがあったりして、あれは天使からの伝言だったのか…と考えたりするとても楽しくなります。 

ミーナと過ごした時間

朋子がミーナと過ごした1年間は、とても濃厚な時間が流れました。ミーナに頼まれて、図書館に行き、司書のとっくりさんと知り合ったこと。

ミーナが恋したフレッシー配達の青年。

ミーナと応援したミュンヘンオリンピックのバレーボール。猫田選手にファンレターを書いたミーナはかわいくて仕方ありませんでした。

そして、朋子が、ミーナのお父さんの浮気相手のマンションの下まで旅したこと。

何もかもが朋子にとっては、非日常的で、とても魅力的だったんだろうな、ということが、ひしひしと伝わってくる美しい文章で、作者の小川洋子さんの人柄までが垣間見えます。

ミーナの家族

ミーナの家族もみな個性的で魅力的です。

いつも何かしらの書物の誤字脱字を探しているミーナの母である朋子の叔母。夫の浮気を見て見ぬふりをしつつ、彼を深く愛し続けるには、誤字脱字を探すというようなストレス解消法が必要だったのでしょう。

海外に留学している「情熱的で大地のような力強さをもった」美しさがあるミーナの兄の、龍一さん。家族全員で行った海で、父に勝負を挑む龍一さんは、父の浮気を暗に責め、そんな父に負けるものかという男意気を感じさせるとてもいいシーンです。龍一さんをとりまく同級生の女子たちに、かばのポチ子がいたずらをするシーンはなんとも愉快でした。

ロシア人のミーナのおばあさまと、その親友であり、住み込みのお手伝いの米田さん(ミーナの家をとりしきっている)の物語も心をしっとりとさせます。一人、日本に嫁いだおばあさま。彼女を支える米田さんの強さ。

この物語には、魅力的な人物が沢山登場し、それぞれの人生の物語が丁寧に描かれています。

ミーナと朋子のその後

朋子は、約束通り、1年で母の元に返ります。その後は以外にもそれほどミーナには会っていないようです。しかし、ミーナは病気を克服し、たくましい女性に育ちました。

この物語を読んでいる最中は、「ミーナは最後には死んでしまかもしれない」という恐れをずっと抱きながら読み進めていたので、すべての物語がセンチメンタルに感じられました。しかし、最後、ミーナが立派に育ったのを知り、すべての物語が一気に色彩を帯びた生き生きとしたものに私の中で変わったのがとても感動的でした。小川洋子さんは、絶対に読者をがっかりさせない作家さんです。

ふと、日常を忘れて、おとぎ話のような世界にひたりたくなったらこの物語を思い出します。

文庫本も出ていますが、寺田順三さんのノスタルジックで美しい挿絵は、単行本の方が多く掲載されているので、単行本の方がおすすめです。

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4.04.0
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