明けない夜はない。止まない雨はない。そういうことなのだ、学士殿
栗原一止
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神様のカルテは夏川草介による日本小説で、現役の医師である作者が第10回小学館文庫小説賞を受賞したデビュー作である。また2010年には本屋大賞で2位になった。 主人公の栗原一止は夏目漱石が好きでちょっと変わったしゃべり方をする医師である。彼が勤務している病院は、地域医療の一端を担うそれなりに大きな規模の病院。24時間365日対応という看板を出しているせいで3日寝ないことも日常茶飯事、自分が専門ではない診療まで行うのも普通である。そんな病院に勤める一止は大学病院の医局から熱心な誘いを受ける。最先端医療のある大学病院の医局に行くか、どんな患者であっても受け入れ向かい合う地域病院にとどまるのか、一止のこころは揺れる。 様々な悩みの中で、個性的で変わったしかし憎めない友人たちと妻のハルさんとのやり取りなど随所にユーモラスな描写も盛り込まれている。 地域医療問題、緊急医療問題、終末期医療問題、癌告知問題、研修医問題など、今の日本が抱える問題を現役医師の作者がうまく切り込んでいる作品である。
軽い読み味を求める人には良作、それ以外の人には物足りない正直な感想を述べると本作はかなりライトな作品だ。勘違いが無いように言っておくが決して「面白くない」とか「ダメな作品」と言っている訳ではない。漱石マニア(?)の一止の語り口調は面白いし、医療モノ独特の人の生き死にを懸命に扱っており好感が持てる。形容するなら「これから大人になる若者に読んでほしい作品」といったところか。では冒頭でなぜわざわざ「ライト」と言ったか。とにかく読み味が軽い。キャラクターが軽い。「生き死に」を懸命に扱っている、とは書いたがあれほど過重労働をしている職場なのに人間の醜さ、汚さはほとんど出てこない。3日徹夜ってのもまあいいか、と思えるほどだ。そういう意味で「人間」を懸命に扱っているとは言い難い。5日徹夜くらいの極限を書いて一止の脳裏に「まあ俺も大変だし、この人一人くらい死んだっていいか・・・」という発想が浮かぶ、く...この感想を読む
タイトルが素晴らしい!「神様」と「カルテ」という組み合わせが「医者」というイメージを良い意味で誇大しています。この作品はボクの学校の図書館にあり、プッシュされていたので手に取りました。心が温かくなる優しい物語です。ボクのタイトルのイメージとは少し違った医者の物語でしたが、優しさに溢れた登場人物や、漫才のような医者と患者との掛け合いが面白いです。そして、現代医療の抱える様々な問題も語られていて、考えさせられる箇所も多々ありました。このような「医者」をテーマにした物語は、派閥のドロドロした感じが定番ですが、それがなく、あっさりしていました。一気に読める、オススメの作品です。
地方病院に勤める医師の物語。やや風変わりな主人公・その妻・御獄荘の人々が、作品全体の柔らかい雰囲気を醸し出している。人と人の温かいコミュニケーションが心に染みる。一人の末期がん患者と向き合う地方病院の医師や看護師たち。最期の時間と向き合う辛さ、同時に患者を取り巻く人々の優しさがとても良い。死に直面したときに自分はどんな選択をするのか。信頼できる医師や看護師と共に、自分が納得する時間を過ごしたいと感じた。現実味は薄い内容なのかもしれない。死を扱う作品は、読後に重いものが残ることが多いが、これは読後感が良い。きっと作者の理想や希望が詰まった作品なのだと思う。
栗原一止
大学受験に失敗し信州の田舎町に8年住み着いていた学士殿が、息子は東京の大学で学問を続けていると固く信じていたという母を亡くし出雲の実家に帰る時に、一止が餞別として島崎藤村の「夜明け前」という小説を手渡した時のセリフ
栗原一止
病院の場面で、もう治療を諦めた方がいいと思われた患者を救う時に、医者の同僚に言った言葉。
栗原一止
自責の念から自殺未遂をはかったが一命をとりとめた学士殿が、実は自分は学生でも何でもなくずっと嘘をついて来た、騙していたのだと泣きながら一止に真実を明かし詫びた際に一止が言ったセリフ