坂の上の雲を読んで近代日本を知る
近代日本の歩みを学べる一冊
この本を読めば日露戦争からスタートした日本の戦争の歴史が私の今の生活にどのように関わってきたのかがわかる。もしこの戦争に負けていたらどうなっていたのかを想像してみると良いと思う。
明治の漢たちの生きた美しい時代が蘇る
日露戦争で大活躍した秋山兄弟を始め、名将とうたわれる東郷平八郎や、乃木希典、児玉源太郎をはじめ、正岡子規、夏目漱石など日本の近代化に貢献した偉人の生きた時代が如実に描かれている作品。
偉人と呼ばれる彼らの生き様を通して歴史の転換期や彼らの人間的な魅力も見えてくる。
いつの時代も若者が国を創る
この小説は単行本で全6巻にもなる長編小説なのだが、作家司馬遼太郎の代表作とも言える作品だ。小説の時代は明治時代の日本の世界における地位を確立した日露戦争をテーマに、そこに生きる人々の国に対する熱い思いが描かれている。日本は当時ロシアやイギリス、ましてやアメリカからすれば、超弱小国である。
しかし、中国をめぐっての争いに参戦した日本はなんと当時最強を誇るロシアのバルチック艦隊を撃破してしまい、世界にその名を轟かせることになる。そのことが太平洋戦争につながり、今に至るのだが、なぜそんな小国の日本が勝てたのか、いろいろな要素があるが、まずは間違いなく登場人物である愛媛松山藩の藩士の息子である秋山兄弟の活躍によるところが大きい。
この兄弟が学問を学ぶために故郷を出るときには使った交通手段が小舟だったものだが日露戦争時には兄、秋山好古は数百人を率いる騎兵隊の大将に、弟、真之は海兵隊の中将として戦艦に乗りこむことになる。海外で最新の兵学を学び、それを積極的に取り入れ、秋山兄弟以外にも重要なポジションにつくものは海外に留学して学び、それを見事に実戦に生かしている。
好古は大酒飲みで豪傑だが弟想いの優しい兄、真之は向上心が強く勉強熱心で、スマートで女性にもモテる。とにかくこの時代の若者は皆、国や家族、友人、そして仕事を愛し、新しいことを吸収することに貪欲だ。翻って今の若者はどうだろう。国を愛しているか?家族を愛しているか?友人を愛しているか?仕事を愛しているか?
すべての人とはいわないが、選挙にも興味を示さず、核家族化し、家族が集まるのは親が亡くなった時だけ、しかも財産をめぐっての醜い争い、友達との付き合いは主にメール・SNS、仕事はとにかくいい大学に入っていい仕事にありつけたものが勝ち、給料が低ければ転職が当たり前、退職時には全てメール1本で終了。創られたものは必ず滅びるのが宇宙の法則とはいえ、悲しいものだ。
また、この小説では日露戦争が大きなテーマとなっているが、それはあくまでこの話の中心になってるだけで、決して戦争小説ではない。近代文学の発展に貢献した夏目漱石、俳句の確立させた正岡子規など日本を愛し、少しでも人のために生きようとする偉人の生き様が描かれている。
そしてこの時代の日本人は世界でも憧れの存在だ。敵国ロシアは東欧諸国でも圧政により各国民を苦しめており、小国日本がこの大国に勝利した時、各国は自分のことのように喜んだそうだ。ちなみに東郷平八郎や乃木希典、児玉源太郎は特に英雄として崇められており、道の名前にもつけられていたそうだ。また、戦争中に捕らえたロシアの捕虜にも親切に食事を与え、清潔な環境で生活させたという記録も残っている。
ちなみにこの小説の中盤では日露戦争の海と陸のリアルな戦いが描写されており、海では最新の海兵学を駆使した両国の緻密な戦略と駆け引き、そして対峙したときの激しい砲弾戦では火をまとった馬鹿でかい砲弾が甲板を貫き、船内にいる船員の体を吹っ飛ばし、船を焼き尽くす様や、陸では敵の陣地をなかなか攻略できず、ともに毎日のように大量の死体を生産。食料も尽きてきたため、肉弾戦に突入し、最終的には体と体のぶつかり合いになり、その死体には指で相手の目玉をくり抜いたままの姿勢のままのものや、相手の喉ぼとけに食らいついたままのものなどがあちこちに転がっていたという壮絶な戦いを想像させる。その描写は見事なまで生々しく描かれており、まるで作者が実際に戦地に赴いて取材を行っていたのではないかと思わせるほどだ。
また、この戦争を勝利に導いたのは秋山兄弟、東郷平八郎、乃木希典、児玉源太郎というイメージが強く、周りがあまり注目されていないのだが、実はその背景にはアメリカの協力を取り付けた金子堅太郎、諜報部員としてロシアを内部から混乱させた明石元二郎、日本陸軍の総指揮をとった大山巖、その他友好国であるイギリスの協力、これらすべての要因があったからこその勝利である。
すべての要素が戦略の1パーツでありながらもこれらが一体となり信頼があってこそ勝利につながったと言う点では企業戦略にも通じるもので、ビジネスに置いて決定権を持つ管理職および経営層にも役に立つ要素がたくさん詰まっているようにも思う。
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