岸部露伴の奇妙な世界へ - 岸辺露伴は動かないの感想

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岸辺露伴は動かない

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岸部露伴の奇妙な世界へ

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画力
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ストーリー
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キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
4.5

目次

彼のプロフィールは岸部露伴


本作は雑誌週刊少年ジャンプで荒木飛呂彦氏が超長期連載を誇る「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部に登場した岸部露伴が主人公の漫画である。主人公の岸部露伴は漫画家を生業としており、彼は優れた創作のための取材に労を惜しまない。そのため、奇妙な事象を発見するや自ら飛び込んでいき、巻きこまれていく。

岸部露伴のプロフィールは「ジョジョの奇妙な冒険」のなかでも特殊である。彼は「ジョジョ」のストーリーの中で表現される特殊能力のスタンドを持つ血統ではなく、「ジョジョ4部」の物語の中でスタンド能力を発現させる「矢」に刺されることでスタンド使いとなっている。それまでは少し偏執的だけどもごく普通の漫画家として活動していた彼だが、スタンド能力を得たことで「ジョジョ」の世界にかかわる漫画家になっている。能力を習得して以降の彼はスタンド能力を駆使して、自分の漫画の題材を取材したりなどしている。彼は出身地が設定されており、そのイニシャルは作者の荒木飛呂彦氏の出身地を彷彿とさせる。そして彼は、作者の荒木氏と同じく漫画家である。


彼をどうとらえるか


そんな岸部露伴の活躍を描いたスピンオフ作品の一作目「懺悔室」が収められている。この物語の中で岸部露伴は自らの創作の新たなストーリー新展開のためにイタリアへ取材に来たと冒頭で説明している。奇しくもこの「懺悔室」が発表された97年は荒木氏が「ジョジョの奇妙な冒険」本編でイタリアを舞台にした第5部を連載している最中である。そんな荒木氏の環境との類似を提示する岸部露伴は取材活動の中で、とても信じられないような不幸と幸福にまみれた恐怖の物語を聞かされる。岸部露伴はその物語を語ってくれた彼のことを悪人ではあるが前向きに生きる男であることを尊敬すると評価している。露伴の取材対象の人物への見解は、エピソードに対して彼が善であるか悪であるかだけを判断するだけでなく、彼自身がそのエピソードの中でどのように生きていこうとしているかを推察しており、彼という人間の生き方を称えられると判断しているようだ。「ジョジョの奇妙な冒険」を描く荒木飛呂彦先生も「人間賛歌」を大きなテーマとしており、取材で得たエピソードから人間をほめたたえる部分を見つけようという姿勢は岸部露伴にも同じものがある。

岸部露伴という登場人物が、漫画家荒木氏が描いている漫画家というプロフィールを持っていることで、「岸部露伴」は漫画家荒木氏が自身を投影しているキャラクターなのではとみる向きもある。しかし、荒木氏はコミックのコメントなどでこれを否定している。しかし岸部露伴が語るところによる彼の連載誌や、同時期に活躍している漫画などの話は、作者の荒木氏の環境と似通ったところがあるように読みとれる。あくまでも岸部露伴はスタンド能力を駆使する「ジョジョの奇妙な冒険」の世界の登場人物であり、現実世界ではとても実現できない特殊能力を使いこなす漫画家なのであるが、そんな奇妙な「ジョジョの奇妙な冒険」の世界を描き出すとてつもない能力を持つ荒木飛呂彦先生をファンが岸部露伴と同一視してしまうのも無理のないことであると思う。

ありえない世界


岸部露伴は、荒木飛呂彦先生がジョジョの奇妙な冒険の世界に登場する人物に自己投影したキャラクターなのか?ジョジョの世界はあくまでフィクションであるし、「岸部露伴は動かない」シリーズで描かれるエピソードも、とうてい現実では起こり得ないような奇想天外な展開に満ちたものばかりである。しかし、岸部露伴に作者荒木飛呂彦先生との類似点を与えることによって本作ではジョジョの世界のホラーを描き出すことに成功していると思う。岸部露伴というキャラクターの存在で、長期連載の「ジョジョの奇妙な冒険」で膨らませてきたジョジョの世界と現実感との敷居を低くして、あり得ない恐怖に説得力を持たせた物語。
「ジョジョの奇妙な冒険」読者で、ジョジョの世界観にの入り込みたいと思っているファンなら岸部露伴というストーリーテラーによるジョジョのホラーの世界への誘いは堪らないだろう。


荒木氏と岸部露伴を同一視したいというファンの心理を突いたのか、このコミックスに収められている最後のエピソードでは岸部露伴は漫画家荒木氏が依頼された漫画の題材にしたものと同じ対象に対してアクションしているストーリーで締められている。しかも、このエピソードでは岸部露伴はスタンド能力を使わず、「スタンド能力を持つ(つまりここはジョジョの世界?)バッグ」に翻弄される岸部露伴の物語になっている。このエピソードの岸部露伴はまるで、スタンド能力の存在する世界に放り込まれた荒木飛呂彦先生が描かれているようだ。


本作はファンの「ジョジョ」の物語を紡ぎ続ける荒木飛呂彦先生への深い畏敬の念と、「ジョジョ」の奇妙な世界を荒木先生が冒険したらという想像を満足させる一冊となっている。

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他のレビュアーの感想・評価

ああ先生恰好良すぎですぅ。

ジョジョ風な世にも奇妙な物語週刊連載の作品の作者って読み切りになると面白くなくなるんだよねぇ。って内心思っている節がありましたが、この作品はそれを吹き飛ばしてしまいました。一話一話に教訓のようなものが感じられ、人間の心にある闇の部分がスタンド能力?として、各話で描かれていました。また、各話にはスタンドのようなものが描かれていましたが、名前がでてこなくて逆に不思議な現象で止まっているところが戦いでは片づけられないしがらみのようなものを想起させてくれました。各話の教訓とは?懺悔の話。一つの人生が凝縮された話で、自分のエゴや考え方を赤の他人に求めるとこうなる。みたいなちょっと怖い話。自分にとっての利益とは、他人の犠牲の上になりたっており、その罪は人生が終わっても子孫までの呪いとなって残る可能性がある。六壁坂の妖怪の話。ぶっちゃけ殺人しちゃっている女主人公の現実逃避を描いた作品で、こんなことは...この感想を読む

4.04.0
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