祖母とポチと私
動物と人間の繋がりを感じる作品
私はハチ公の銅像を、実際に見た事がない。なかなか東京まで行く時間もなく、東京へ行ったとしてもハチ公を見に行こうという予定はつくれなかった。1人で東京に行く際にはハチ公の銅像に会いに行きたい。ハチ公に会うためだけに2時間電車に揺られて会いに行く価値は高い。一匹の犬がもたらした物語にここまで感動するのは私にも買っていた犬がいたからだ。雑種でごく普通の犬だ。でも私にとっては大事な家族だった。今はいないその犬の名前は、”ポチ”という。もっと洒落た名前をつけてあげたかったが、当時小学低学年の私には犬といったら”ポチ”という名前しか浮かばず勝手にポチと呼ぶ私に家族は仕方なくポチで承諾したのだ。そんなポチは私の後ろをずっとついてきた。私を母親と思ってるわけではないと思うが、頼れる人だと感じて自分の後をついてくるポチに、小学生の私は得意げな表情をみせていた。私が学校に行っている間、ポチは私の祖母と遊んでいた。祖母は強い昔の女性という印象を持つ人だ。母親が遅くまで仕事をしていたので私の母親代わりをしてくれていたのだ。母親の帰りをいつも祖母と待っていた。その隣にはいつも祖母とポチがいてくれたから寂しいと感じたことはなかった。祖母は料理が得意で私が頼むとなんでも作ってくれた。祖母の偉大さを感じていた私は母親と過ごす時間がどんどん減ってしまっていてもへっちゃらだった。むしろ母親より祖母といられることの幸せを実感していたのだ。
ハチ公はご主人を待ち続けていた。それほど深い絆で結ばれていたのだ。そんな関係が羨ましいと感じた。小学生の頃に飼っていたポチと拾った私はどれ位の絆が生まれていたのだろうか。私はポチが大好きだった。一緒に公園へ行く事もあった。毎日楽しく過ごしていた。だからポチもきっと楽しんでいてくれていたと思っている。一緒に走り笑い合った事、車の窓から気持ち良さそうに風を感じていたポチの表情を私は一生忘れないだろう。
死を恐怖だと感じた瞬間
ペットと飼い主の関係性は時に人間以上の繋がりをみせる。この作品のように今まで多くの動物の物語が世の中に出されている。これはいかに動物が人間を必要としているかということが良く分かる。人間も動物がいる生活を必要としている。そんな世の中が今は当たり前のようななっている。この作品の飼い主と犬はお互いが必要としていた。顔を合わせることで優しい気持ちになっていた。突然の別れが訪れた瞬間に亡くなった飼い主は犬の事を気掛かりに思っていただろう。きちんと成仏出来たのかが非常に気になるところだ。私は成仏出来ずに犬の側にずっと居たのではないかと思う。亡くなったことを理解出来ない犬は飼い主を待ち続けていたが、その隣にはいつも飼い主が見守りながら駅の前に居たに違いない。深い絆とはそういうことだ。
私はポチが亡くなる瞬間まで一緒にいた。ポチは病気になってしまったのだ。私はポチが苦しむ姿を泣きながら見ていた。ポチの体にハエが飛んできた。祖母は、もう離れていなさいと私に何度も言ったが、絶対に離れたくないと私は祖母の言うことを聞かなかった。ポチが息を引き取った瞬間を今でも忘れられない私は人が亡くなるという事に恐怖を覚えた。祖母はきっとその”恐怖”を私に伝えないよう何度も私をポチから引き離そうとしていたのだと今の私には分かる。
ポチが亡くなってから私は悲しみに暮れていた。それを慰めてくれたのもいつも隣にいてくれたのも祖母だった。人生は突然起こる予想外の出来事にいつも悩まされる。それは動物も一緒だ。いくら言葉が通じ合えないとしても相手の涙や温もりや笑顔を見れば言葉が分からなくても何かを感じとることは出来る、私はそう信じている。この作品にあるようなストーリーは動物を飼う人皆が感じることだろう。
大切な人が死にゆく姿
祖母は89歳で亡くなった。私はポチが亡くなる時と同じ様に祖母が息を引き取る瞬間まで側にいた。それを止める人はいなかった。祖母なら怖い思いをするのはお前なのだから離れなさいと言ったかもしれない。でも祖母はベッドの上で苦しそうにしている。祖母がどう思うか分からなかったがとにかく側に居たかった私は祖母の手を離したくなかった。涙を浮かべた祖母の顔を一生忘れない。
私たちが今生きていて大切な人がそばに居ることの喜びを感じることは、普段の生活の中にはなかなかないのかもしれない。時間が経つとありがたい事をいつも当たり前だと感じてしまうことは仕方がないのだろうか。それでもハチは毎日ご主人がくるのを待ち続けていた。
私には祖母の死が大き過ぎて、随分戸惑ってしまった。祖母から教わったことをずっと胸に秘めながらいつ何が起きるか分からないこの人生を必死に生きて行こうと思う。そして人の寿命は誰にも分からないという事に恐怖を感じた。ポチと祖母と私はしっかりとした絆で結ばれて生きている。
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