女って素晴らしい!そう感じる媚薬 - ガールの感想

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ガール

3.833.83
文章力
4.08
ストーリー
3.75
キャラクター
4.13
設定
3.75
演出
4.00
感想数
4
読んだ人
4

女って素晴らしい!そう感じる媚薬

4.84.8
文章力
4.8
ストーリー
4.5
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
5.0

目次

男性が描いたとは思えないガールな話

今から10年ほど前に、奥田英朗氏によって書き下ろされたオムニバス作品。奥田英朗氏は、もちろん男性なのですが、女性以上に女の気持ちを表現している小説です。内容は、ひと言で言うと、めちゃくちゃに面白いです。もしかして、奥田英朗さんは、女じゃないのか?と思うぐらいに女性の立場と視点で、物語が展開していきます。

物語は、どれも30代半ばになった女性の生活をリアルに描いた作品。この作品を読みながら、そうか女性ってこういう事を気にしたり、悩んだりしているんだよなっと改めて思い知らされました。例えば、20代の女性から30代、40代と年を重ねて行けば、確実に見た目も変わり、周囲の態度も変わってきます。でも、女性っていつまでも、そうなりたくない、そうならないと、頭のどこかで願うわけです。見ないように、感じないようにして、いるのですが、この作品は、女性が年を重ねて行く葛藤を真正面から付き合わせて、しかも面白可笑しく描いています。男性から見て、年を取った女性が、若い女性と同じような服装をしたり、ミニスカートをはいたりするのは、どこか痛いと思っているのでしょうね。

でも、この作品はここで終わらないのです。悩み、落ち込む女性を心の底から励ましてくれる作品に仕上げています。「ヒロ君」では、上司にタンカを切る聖子、「ガール」ではお堅い女史をお光が可愛い女の子に仕上げ、「ひと回り」では、イケメンを若い女の子達から巧みにガードする里美。どれもこれも、リアルさのなかに、女の強さと正義感、ほろ苦い切なさが入っていて、読んでいる人の心をとらえます。読み終わった爽快感も抜群で、読み終えるとニヤニヤと笑っている私がいました。

非常に読みやすい文体

奥田英朗氏の小説は、どの小説をとっても非常に読みやすい文体で仕上げてあります。ですから、小説は苦手と感じている方も、気軽に読んでみてはいかがでしょうか?

読みやすさの理由に、堅苦しい文体ではなく日常の独白が多様に用いられている事が要因だと思います。ほとんどの作品は、一人称で描かれ、難しい描写がありません。小説というのは、そのシュチエーションを事細かに説明し、文体で表現しようとされますが、私にとっては、あまりありがたくありません。描写している文章は、ストーリーの展開も、主人公の気持ちもないので、とても退屈な部分なのです。

また「ガール」は、台詞がずば抜けて良いというのも特徴です。奥田英朗氏の書いた小説は、どれも台詞が生き生きとしていて、主人公は長くは語りませんが、簡潔に言いたい事に重点を置き、ここぞという時に、台詞とし登場させ、心に響く言葉として残してくれる作品となっています。そのせいか、奥田英朗の小説は、ドラマや映画としてよく取り上げられています。

主人公に似たような気質を感じる

「ガール」は、30代女性が主人公になっています。どの主人公も、キャリアウーマンという点では共通していますが、それぞれ違う人物を描いています。しかし、1人1人の気質や、雰囲気がとても似ているので、個性を感じられません。同じ人物といっても、気がつかないのではないでしょうか?

そう言った意味では、人間ひとりひとりの深い所まで描き切れていないと言えるでしょう。どの女性も、同じ事で悩み慌てふためくといった、シュチエーションですので、もう少し、幅広さがあれば、いいのではないかと思いました。

景気の良い時代背景

バブルとまではいきませんが、景気の良い時代背景をバックとして描いている作品です。景気が悪くなるなんて考える事もなく、東関東大震災のような出来事が起きるなんて、想像もつきませんでした。女性は男女とともに、平等に会社に勤め始めた時代です。堂々と仕事に生きる女性は、賢くもあり眩しくもあり、よい時代だったのだなと、感じます。

現代でも、女性の社会進出はありますが、この時代と比べると少し違ってきたように思えます。今は共働きが当たり前、男性1人のお給料で生活できない、保育園に入れて夫婦が平等に生活を支えています。この中の女性たちよりも、女性差別的な問題では、良くなってきたのかなと思います。結婚したから会社を辞めなくてはいけない、子供を産むから会社を諦めなくていけないなど、そういう考えを持っている男性が少なくなってきたように思えます。

やっぱりいつまでもガールでいたい

これが、女性の本音なのかも知れません。年を重ねても、外見はオバサンになっても、おばあちゃんになっても、いつまでもガールでいたいと願うのが女性の本音なのでしょう。しかし、その女性の本音と願いを、男性である奥田英朗が書いた事に、驚きます。奥田氏には、そのような女性がいたのでしょうか?もしかしたらお姉さんや奥さんを、見て書きたくなったのでしょうが、書く動機がどうしてなのか、ぜひ一度聞いてみたいと思います。

落ち込む前に「ガール」を読め!

正直、人生なんて嫌な事ばかりです。特に社会的にも肉体的にも弱者な女性は、いくら強がっても壁にぶち当たることは、避けられないでしょう。そんな時は「ガール」を読んで、いやな事は、吹っ飛ばして下さいね。

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