全てが中途半端な作品 - マリー・アントワネットの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

全てが中途半端な作品

2.52.5
映像
3.0
脚本
2.5
キャスト
2.5
音楽
3.0
演出
2.5

目次

オーストリアからフランスに嫁いだ女性の物語は、主題が全く見えてこない

物語は、オーストリアからフランスに嫁いだ女性・マリー・アントワネットを主役として進められる。

マリー・アントワネットの物語は、誰しも知っているだろう。オーストリアの女帝マリア・テレジアの娘にして、フランス王妃。貧困にあえぐ民衆に「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったとか言わないとか。最期はコンコルド広場において、ギロチンで公開処刑された。

今回考察する『マリー・アントワネット』は、怒り狂った民衆がヴェルサイユ宮殿に押し寄せ、アントワネット含めた国王一家が宮殿を抜け出すところで話が終わってしまう。

マリー・アントワネットの伝記、というにはあまりに中途半端な終わり方だ。これ以降のフランスは革命の血が降り注ぐ展開になることから、キレイなうちに物語の幕を閉じようと思ったのかもしれないが、せめてヴァレンヌ逃亡事件ぐらいまでは言及してほしかった…。

ストーリー自体も起伏が少なく、ずいぶん引っ張られたルイ16世とアントワネットの初夜もあっさりと終わってしまう。その間にそれらしく、二人の絆だとか愛だとかに見どころがあればまだ見れたものの、それらについて全く補完されるような内容はなく、気づけば子供(マリーテレーズ)が生まれている…となんとも微妙な展開だ。

アントワネットの葛藤も心情も語られることなく、愛人であるフェルゼンとのラブストーリーも薄い。ただアントワネットがヴェルサイユに来て、美味しそうなお菓子を食べて賭博をして仲間たちとわーわー騒いでいるだけの映画だ。それなら、別にアントワネットを主人公にする必要はないだろう。そこら辺の路傍の少女を題材にしても作れる作品だ。

アントワネットが何を考え、何を行い、どういった女性だったのか。それさえも映画のなかで示さないのであれば、映画を作る意味すらないだろう。

製作者は一体何に重きを得てこの映画を作ろうとしたかったのか、ほとほと謎である。

配役も半端。誰が誰だがさっぱりわからない

問題なのは、アントワネット役であるキルスティン・ダンストが魅力的に映らないという点だ。

キルスティンが美しくない訳ではないのだが、はっきりいってしまえば「どこにでもいる普通の少女」で、笑顔も、ちょっとしたわがままのそぶりも、わが子に母としてのまなざしも、ごく一般的な女性のそれだ。普通の少女役ならまだしも、彼女がフランス王妃を演じる理由が見つからない。

美しいドレスを着ればそれなりに”主役映え”するのだろうが、周囲の取り巻きたちもみんな同じような姿かっこうをしているため、誰がアントワネットなのかはっきりしなくなるシーンが多々ある。カメラワークや演出の問題なのかもしれないが、小学校の学芸会ではないのだから、最低限主役が誰かわかるようにしてくれなければ観ているほうは困惑するだろう。

また、これだけアントワネットの回りには取り巻きがくっついているのに、ポリニャック夫人ぐらいしか名前も覚えられないほど人間関係も漠然としている。なぜ王妃の回りにこれだけ人が集まっているのか、王族とはもう少し距離を置くべきではないのか…そんな観ている側の疑問など解消する訳もなく、ただ彼らは享楽的に生きているだけである。

この作品のキャッチコピーは「ダイヤとシルクとケーキに囲まれた、ひとりぼっち」「14歳で結婚、18歳で即位、豪華なヴェルサイユに暮らす孤独な王妃の物語。」などと謳われているが、アントワネットは全く孤独ではなさそうだった。むしろ毎日楽しそうですらあった。

孤独をテーマにしたいのだったら、他文化に馴染めなく悩んでいるところや、もしくは暗い表情で表現するなど、いろいろな試し方があったと思うのだが…。

美しきヴェルサイユ

酷評ばかり並べてきたが、この作品の良いところは映像的な美しさであろう。特に女性は心を鷲掴みにされるはずだ。

美しいドレス、パリ最新のモードを取り入れた前衛的なファッション。アクセサリーの一つ一つもキレイだし、なによりヴェルサイユ宮殿の内装が本当に素晴らしい。こんなところに住んでみたいと思わせるような、王宮らしい瀟洒なインテリアの数々に目を奪われてしまう。アントワネットが使っている食器のデザインすら美しいのだから、見蕩れてしまう限りだ。

また、作中登場するお菓子の数々にも目を奪われる。今日ではフランス料理は世に名だたる三大料理の一つとして数えられているが、『マリー・アントワネット』での劇中でもその片鱗が透けてみえるというものだろう。可愛らしいマカロン、色とりどりの果物をふんだんに使ったスイーツ。見ているだけで楽しくなるようなお菓子類を贅沢に食べる姫君たちといったら、嫉妬ものである。

このように、映画としてはいまいちな『マリー・アントワネット』であるが、芸術点・美術点は相当に高い。

歴史的な参考資料としては使いものにならないが、美味しいお菓子が食べたくなったときに観るのが一興…かもしれない。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

感想をもっと見る(7件)

関連するタグ

マリー・アントワネットを観た人はこんな映画も観ています

マリー・アントワネットが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ