豪華メンツの織りなす王道青春映画
あらゆる層にヒットするストライクゾーンの広さ
宮崎あおい、高良健吾という今をときめく豪華俳優がカップル役を演じた本作、原作は同名の二巻完結の漫画で、作者は浅野いにおさんという、サブカル好きの間では有名で多大な人気を誇る漫画家さんです。脇役の加藤の役にサンボマスターの近藤さんを起用したのは、楽器ができて(プロですので当然ですが)風貌が似ているだけでなく、サブカル層の客層をより引き込み、かつ本作と原作を知らない人に触れてもらえればという思いもあったのかもしれませんね。
誰もが知っている俳優陣に、主題歌や作中の楽曲提供もASIAN KUNG-FU GENERATIONと人気グループで固め、王道なテーマと全体の設定に関しては、ツタヤなどで見かけた際には本作を知らずとも手に取りたくなるようなストライクゾーンの広さを見せています。
原作ファンの目にどう映るか
人気の漫画原作とあって、一番着目されるのはこの点なのかなと思います。実は僕自身も原作及び原作者のファンなので、そこが楽しみでありながら心配でもあったのですが、まずは原作と本作の設定や展開の違いを見てみますと、
・全体的な流れ、結末などはほぼ同じ
・細かいセリフなどの位置が違うことは多少あり
・原作にあったギャグ的要素はほぼなし
・ビリーが芽衣子を好きだという設定はなし
大まかに書き出しますとこんな感じでしょうか。
ビリーの設定の件は少々残念な気もしましたが、全体の流れをシンプルにしてわかりやすくするためと思えば、ギャグ的要素をほとんどなくしたのもうなずけますし、結果的にこれで正解だったなと思います。
設定に関しては映画ですと二時間ほどに収めなければいけませんし、ましてや今回の原作はシンプルでいろんな解釈がされている作品なので、映画に関しても様々な意見はあるとは思いますが、「キャスティング」に関しては花マルをあげたいくらいイメージに近くドンピシャでした。同じ気持ちの方は多いのではないでしょうか。
愛ちゃんは外見は違うものの、姉御肌のキャラがうまく出ていたので問題なし、ビリーは外見だけでいえば山田孝之さんでもよかったかなとも思いましたが、声の感じを考慮すると桐谷さんでベストでしたね。
ヒロイン芽衣子と種田に関しては、映画化する前から「もし映画化するならこの二人がイイ!」と思っていた二人だったので個人的にかなりテンションが上がりました。
なるべく原作の外見に寄せつつ、でも雰囲気や映画としての出来を重視したいという感じが伝わる良いキャスティングだったと思います。
漫画原作の映画は、その漫画の世界観を再現しようとしすぎてか、何かと違和感があったり変にチープになってしまったりする事が多いと個人的には思っているのですが、本作は後述する疑問などはあったものの、一つの恋愛青春映画として良い出来になったと思いますし、原作ファンも好きになれる映画じゃないかと思います。
なぜなら僕自身が好きになったからです。
演出や演技に関する疑問、監督の背景
これは原作を読んだ人ほど思う事だと思いますが、演出や雰囲気がすごく良いシーンが多くありながらも、演技(主にセリフのあるシーン)のチープさが目立ちます(その分宮崎あおいさんの演技力のずば抜けた高さが際立っています。芽衣子というキャラにもともと雰囲気が近いというのもあると思いますが。)。当然監督もこの原作が好きだからこそ映画化に踏み切ったのでしょうし、もう少しこだわるというか踏み込んでもよかった気もするのですが、この違和感はなぜでしょう?
本作を手がけた三木監督は本作が長編映画初監督であり、しかしもともとアーティストのMVを多く手掛けるディレクターです。
いままで三木監督が手がけたMVなどを見てから本作をもう一度みると納得する場面が多いですし、また違った楽しみ方ができます。
映画としてのメッセージ、作中の楽曲に込められたメッセージ
本作の作中にも登場している「ソラニン」という映画タイトルと同じ楽曲は、もともと原作漫画で作詞され、サビ位置など少々変更を加えてASIAN KUNG-FU GENERATIONが作曲したものです。
物語の最後で芽衣子が歌い、アジカンverはベストアルバムにも収録されています(本作の主題歌「ムスタング」も収録)。
歌詞を聴いてみると一見「恋人との別れの曲」のようですが、原作や本作中で「過去の自分との別れのよう」という解釈がされています。
それこそがこの作品からのメッセージだと思いますし、作中でギターを背負って街を歩く芽衣子がOL時代の芽衣子とすれ違うシーンがやけに美しく見えます。
そして同じく三木監督が手掛けるASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ソラニン」のMVでも、過去の自分と現在の自分がすれ違うシーンが同様にありますし、さらには2015年に三木監督は音楽と映画をモチーフにしたイベントを開催しています。
MV制作に多く携わっているだけあり、「音楽と映画の融和性」「音楽と映画、双方からのメッセージの発信」などといったものが込められているように感じますし、よくよく調べてみると奥深い作品です。
原作も本作も「シンプルすぎてなんかなぁ。」という感想をお持ちの方も少なからずいらっしゃいますが、シンプルだからこそ深読みして再度観てみると、また違ったメッセージとエネルギーを感じる事ができるはずです。
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