悪人
この映画は冒頭の音楽、映像からどんよりと暗い雰囲気を漂わせている。主人公がさびれたガソリンスタンドに立ち寄り、ガソリンスタンドの店員も主人公も愛想が良いわけではなく、淡々と給油をはじめる。
主人公も、殺された女性も、殺された女性に行為を抱かられる男性も、主人公に恋して一緒に逃亡する女性も満たされていないのがわかる。そういった中での殺人。人生に満たされていないから殺人をした、そんな演出だった。
主人公に恋する女性はずっと同じ土地に住んでおり、妹と妹の彼氏と一緒に住んでおり、職場もずっと同じ。自分の人生がこのままでいいのか疑問を持ちながらも、かといって自分の人生を変えようとするエネルギーもない。そんな中、殺人を犯したと告白してくる主人公と一緒に逃亡する。女性は主人公への恋心だけではなく、自分の現状から抜け出したいという想いがずっと心の中にあったからこそ、逃亡を共にしたのだと思う。この人と一緒なら私は今までの人生から抜け出して幸せになれる、どんな状況であっても、と思ったのだろう。それはとても衝動的な感情に見えた。
私がこの映画を見た理由は、何と言っても、殺された女性の父親役が、名俳優、柄本明だったからだ。
彼の自然体な、そして脇役ながらも他の出演者を喰ってしまうような演技が好きなのだ。
その期待は裏切られなかった。娘を殺された無念、怒り、それをどこに向けたらいいかわからない、けれども、少し冷静になり、若者に語りかけるシーンが好きだ。
「あんた、人を本気で好きになったことがあるね」という言葉から始まるシーン。娘を失った喪失感からか、呆然としながらも、しかし情熱的に語りかけている。せめてその若者には人生の素晴らしさをわかって欲しかったのではないだろうか。
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