中盤から一気に引き込まれる東野ミステリー
椅子に座って目の前で繰り広げられる映像を見ている感覚でした。頭では理解しがたい場所に、突然連れ込まれた様々な世代の人々が、非現実世界で生きていかなければならない宿命を理解しながらも、その世界で、過去である現実社会でのルールや理性にとらわれ葛藤する姿に、ハラハラとさせられました。本当は死んでいたのに、もう一度生を与えられた人々。死んだほうが楽かもしれないと思えるような極限状態の中で、13名それぞれの心理描写がよく描かれており、自分が同じ立場だったら誰と同じ行動にでるのだろうと登場人物に投射しながら読み進めることができました。これまでのルールや秩序がまったく通用しない世界で、生きるためだけの様々な意見や決断は、東野圭吾特有の少し残酷的な表現が、小説であるながらも現実味を感じました。特に最後に誠哉が死んでしまったこと。個人的には生きていてほしかったので、もやもやっとしたのですが、このスッキリしない感じがより物語にリアルさを吹き込んでいて、まさに「パラドックス」の終結であると感じました。常識では理解しがたい内容に最初は戸惑いを感じましたが、読めば読むほど引き込まれる作品です。できれば時間のある時に、最初から最後まで一気に読んだほうが、このSFミステリーに入り込めると思います。
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