天地明察のあらすじ・作品解説
天地明察は、サイエンスフィクションを得意とし、アニメ、ゲームの原作などマルチな幅広い活動で知られる小説家、冲方丁の新境地を切り開いた初の歴史時代小説であり「野生時代」に2009年1月号より7月号まで連載された。第31回吉川英治文学新人賞を受賞、2010年には第7回本屋大賞を受賞、40万部を超えるベストセラーとなり、第143回直木賞にもノミネートされ、冲方丁の知名度を大きく広げた作品である。 江戸時代初期、4代将軍徳川家綱治世の頃、碁打ちの名門安井家に生まれ囲碁棋士として約束された将来を持ちながら、天文暦学者として改暦という国をも動かす一大事業に身を投じ、日本独自の暦「太陰暦」を作り上げることとなる渋川春海の数奇な生涯の物語。失敗と挫折を味わい、壁に突き当たりながらも諦めることなく、純粋に夢を追いかける姿が描かれている。月刊アフタヌーンにて2011年6月号より、槇えびし作画で漫画化。また2012年滝田洋二郎監督、岡田准一主演で映画化されている。
天地明察の評価
天地明察の感想
目のつけどころが光る一作
まずこの本は第7回の本屋大賞を受賞しているということを紹介しておきたい。というのも私がこの本を読んだきっかけというのが、まさに本屋大賞の受賞だったからである。読む前は正直なところ全く期待をしていなかったと言っても過言ではないと思う。とにかく自分の中でも話題性が先行していて、内容は大したことがないだろうというくらいにしか考えていなかったのである。ましてや主人公は貞享暦を作ったとされる渋川春海(安井算哲)であり、日本史の教科書でかろうじて聞いたことがある程度の人物だった。しかし読み進めていくうちに、どんどんのめり込んでいった。そしてこのテーマで本を執筆した冲方丁さんは本当に目のつけどころが素晴らしいと感じた。読んで損はないので、一度は読まれることをおすすめしたい。
文句なしの傑作
間違いなく傑作です。江戸の時代に新しい暦を作る。難解になってもおかしくないこの題材が、全く重苦しくない爽やかな小説と仕上がったのは、やはり主人公 渋川春海のちょっととぼけたキャラクターあってのことだろう。碁打ちの家柄に生まれながらも、算術を敬愛し、自分の求める道とは何かを問う春海に課された、新しい暦作り。星の計測のために日本全国を旅しながら、暦作りに情熱を燃やしつつ、好い算術の問題を作ろうとの情熱も失わない。そんな彼を取り巻く、周りの人間の人となりも魅力的な人物ばかり。読んでいる間も読み終わってからも、なんとも清清しい気持ちとなれる、すばらしい傑作です。