ステージキッズの成れの果て - 夢を与えるの感想

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夢を与える

3.253.25
文章力
3.75
ストーリー
3.25
キャラクター
3.25
設定
3.25
演出
3.00
感想数
2
読んだ人
4

ステージキッズの成れの果て

4.04.0
文章力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
3.5

目次

綿矢りさ先生にしては長めのお話

この作品は湊かなえ先生の「母性」と同時並行で読んだ作品なので、ところどころかぶる箇所もあり混同しました。しかし、滅多に同時読みなんてしないわたしがなぜ二冊を同じ期間に読んだかというと、この「夢を与える」があまりにも長すぎて読んでいて中弛みしたからです。しかも綿矢先生の「ひらいて」の次に読んだため、短い文章で濃縮された一冊を読んだ後だから余計に長さが気になってしまい、集中力が続きませんでした。自分の未熟さゆえですが、しかし、今までだいたい160~170ページほどで完結する作品が多かったのに、ここにきて急に200ページを超える作品が登場して、心構えも何もないまま挑んでしまった結果、中弛みを感じてしまったんだと思います。先生の文章は湧き水が緩やかに流れる川のように滑らかで、水量も多くなく、きっと長編小説に慣れている方だったら物足りなささえ感じるほどだと思います。しかし、もともと短編を好んで読んでいたわたしにとって、ぎゅっと身の詰まった作品ばかり選りすぐって読書をしていたためか、短さに慣れてしまい、早く結末が知りたい!と気持ちが先走ってしまって、つらつら描かれている話が苦痛に感じてしまったのだと思います。先生がこのお話を書く上でどれほどの長さにしようと思ったのかわかりませんが、先生自身も長い文章は得意としないと大江先生との対談で仰っていたと思います。はっきりと不得意だとは仰っていないと思いますが、大江健三郎賞受賞時の対談では、大江先生にあなたは中編でいい、とアドバイスを頂いていたと記憶にあります。たしかに、短編ほどの長さだからこそ、綿矢先生の力は存分に発揮されるのだろうと。先生の短い世界の中ですっぽりと綺麗に納めるテクニックは異常なほど長けているとわたしは評価しています。ドラマ化もされ、何かと話題性に富んだ作品ですが、わたしはこの作品に対する思い入れはあまりありません。

見事なまでの転落人生

母親が当時恋人で別れ話を持ちかけた主人公の父親と別れないために、主人公を身籠るという。なかなかインパクトのある始まり方をしています。半ば強引に自己主張をする母親と控えめで見守る姿勢の多い父親は別れかけた溝を埋めるように主人公を愛するのですが、なんだか綺麗にまとまりすぎた家庭で、始まりが始まりなだけに歪んでいる箇所を白く塗りつぶしているように見えました。白い壁の歪みは白く塗りつぶされたことによって誤魔化され、どんどんと亀裂が走っていることを見過ごします。それか、緩やかな上り坂を一生懸命登って、だんだんと緩やかな下り坂になっていることに気がつかなくてスピードが増し、カーブを曲がりきれなくなる。誰もが気がつかないような変化に手のひらで遊ばれて、うまくいっているように見えても実は取り返しのつかないことに向けての準備段階だったり、欲が邪魔して外からの忠告が聞こえなかったり。すでに条件が揃えられた結果なんだなと読み終わってからは思いました。もし母親がひとの意見を素直に聞き入れる性格だったら、有無を言わせない意志の強さを父親が持っていたら、主人公がもっと反抗期をきちんと迎えられていたら。裁判の準備を熱心にしている場合じゃないでしょうお父さん、とわたしは父親に対して嫌悪感を抱きました。強く反対していれば娘も傷つかずに済んだのに、自分の妻に物申さずになあなあで済ませて招いた結果だという自責の念は抱かないのだろうかと。母親はもはや言葉の通じない異星人だと諦めました。犠牲者は主人公の夕子ですが、ビデオカメラを回されて他人がいる前で彼氏と寝ちゃうなんて、もう救いようがないですね。と言い切ってしまいたいのですが、もはや夕子の思考回路は止まっています。正常に機能していません。精神的にも中身がスカスカになった骨のように脆くて危険な状態でした。新しい刺激で舞い上がっているだけかと最初は読んでいて思いましたが、でも多忙さに加えて年頃ですし、事務所に反対されての交際となると燃え上がってしまうのは仕方がないことでしょう。なぜきちんと手綱を引いておかなかったのか、きちんと管理してあげなかったのか。反発するのをわかっていながら無理に別れさせようとするのか。みんながみんな横暴で我儘で自分勝手だなあと。そんな大人たちに囲まれて、夕子は本当に不憫な子だなあと、読んでいて苦しかったです。最後はスクープネタを抱えて走る雑誌記者が会社へ帰るというシーンで終わるのですが、映像になって頭に浮かんでいたので、最後は光が差し込んで画面が真っ白になって終わる、という感じでした。この光はなんだったのだろうと、今更ながら疑問に思いました。それはスキャンダルで芸能活動に終止符を打ったことで得た開放感か、イカロスのようなイメージが湧いたのか。自分の感情を分析すると、その光は原爆を落とされた際の発光に近いものだとわかりました。全てが無になる。影さえも見えないほど強烈な光は白しか見せない。すべてのものの輪郭をとって、彼女は区別がつかなくなる。燃え尽きた、とも表現できるかと思います。ラストはそのような映像を思い浮かべました。

珍しく三人称

調べましたが、一人称での創作に限界を感じたようで、三人称に挑戦されたんだとか。すごいですね。天才天才と言われて、わたしもそう思っていたのですが、人間は人間ですね。綿矢先生でさえ文学は奥が深く、また執筆活動を続ける、読者に届けるということは容易ではないんだと思いました。わたしは三人称のお話があまり得意ではありません。それは感情移入しにくくなるからで、客観的に物語をなぞってしまって、あまり面白いと感じにくいからです。しかし、先生の文章だと違和感なく読むことができ、一人称と変わらずに抵抗感なく入ることができました。芥川賞受賞後の作品でチャレンジするあたり、綿矢先生らしいと思いました。これからも先生らしく奔放に執筆活動を続けられることを願っています。

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