「きみの友だち」を読んでも、本当の友達はみつからない
本当の友だちを見つける
「きみの友だち」は直木賞作家である重松清氏の短編連作小説。ストーリーごとに主人公が変わることで、様々な心情に触れられる作品に仕上がっています。
その土台とテーマが、題名にもある友達。子供から大人になるにつれて自我が芽生え、自分の違う人との付き合いにどう向き合っていけばいいのかを描き、誰もが通ってきた少年、少女時代を思い起こさせます。
「友 達は何人いる?」その質問に何人と答えられるでしょうか?友達の人数が多ければ多いほど、人間として優秀、幸せ、充実していると勘違いしている人がほとん どの世の中です。現代のスマホや携帯が活躍している今では、その質問に、友達は20人、30人と答え自慢げに答えている風景を見た事があります。果たし て、友達が30人などありえるのでしょうか?
そんな問いに、答えてくれたのが「きみの友だち」です。友だちは数が多ければ、いい訳ではない、長い時間を過ごせればいい訳ではない、本当の友達が何十人もいるなんてありえない。そんな友だちの意味に気がつかせてくれます。
大切なのは自分自身
友 だちとの付き合い方で大切となってくるのが、等身大の自分自身である事も描いています。主人公の恵美は、たくさんの友達に囲まれた毎日を送っていたのです が、友達に傘を譲ってしまった事から交通事故に遭い、友達を恨み、友達を失ってしまいます。しかし、その事がきっかけとなり友達から人気を得ようとか、好 かれようとかしなくなるのです。これは、通常では、学校内で取れる行動ではありません。学校内で、友達と過ごさない人は異質な人物と皆から思われます。最 近では大学生の中でも、1人で食事をしていると思われないために、トイレで食事をしている学生がいるという話を聞いた事がありますが、まるでバカげている 事のように思えます。
恵美は、この事故をきっかけに、1人でいる勇気を得ると同時に、自分自身を偽らないという強さを勝ちとり、他の学生よりも大人への階段を一歩上がる事ができたのです。
その結果、由香ちゃんという素敵な友達を得ました。要するに、本当の友達は、偽った自分からは生まれないという事を描いています。
誰もが持ちえるコンプレックス
学 校生活では、勉強、運動と順位が付いてしまい1人1人にコンプレックスが生まれてきます。それは、成績の悪い学生に限らず優秀な人さえも、感じる事です。 しかしながら、他人の心は、知ることができませんので、自分だけコンプレックスと抱えていると思って過ごしています。「きみの友だち」では、様々な人物の 心情を描いているので、人それぞれの悩みに触れる事ができます。恵美の弟で優秀だったブンのライバルへの感情、ブンの子分として自分自身の価値まで高めよ うとしていた冴えない三好君、後輩に自分の強さを見せつけようとしていた佐藤君。
どの人物も、外側からみるとなんでもない事が、心情を内側から描いているので、まるで自分自身がその人物になったかのような、錯覚になります。
作家の表現の上手さに他ならないですが、もしかしたら、成功したできのいい人物よりも、できの悪い心の方が共感できるのかも知れません。
死で解決するのが安易
こ の物語の中で、登場する由香は重い病気を抱えています。この設定で読者は、この登場人物が死ぬんだろうなと予想し、予想通りに死んでしまう訳ですが、果た してそれが、この物語にとってベストな方向だったのかと疑問を感じます。人の死というのは、全ての出来事を美化し、涙を誘います。もちろん、私も死ぬとこ ろで泣きましたが、その涙は感動ではなく、悲しみでした。それよりもこの物語に求めたいのは、感動ではないでしょうか?由香が友達になって、先に逝ってし まうけれど友だちでいてくれる?そう言った場面をもっとメインにした方が、いいと思いました。
ラストのまとめがイマイチ
「き みの友だち」のラストが、今までの流れと違っていたので、すんなりと受け入れる事ができません。結婚式のラストは、華やかで幸せになる恵美が見られる事 で、ホッとした気分にさせられますが、少し満足のいかない結末に感じます。ああ、やっぱり今までの数々のストーリーは、誰かが書いたお話なんだなと、現実 に引き戻されます。作者なら、こうなった恵美を想像できるのでしょうが、読者から見たら、あれ?どうして?と数々の疑問が浮かんできます。
見たかったのは、由香との別れで恵美がどう立ち直ったかです。死んだことを受け入れるのは、いくら覚悟していた恵美でも無理でしょう。幸せな部分よりも、こちらの部分がみたい。もしかしたら、辛くて書きたくなかったのかもと、思ってしまいました。
本当の友だちは果たしてできるのか?
この物語で、本当の友だちはなんなのか?に気付くことができますが、その反対にある不安も感じる方もいるのではないでしょうか?
それは、自分には本当の友達なんて、一生できないかも知れないという不安です。恵美と由香のような友人関係なんて、普通の付き合いでは、できるものではありません。それを心のどこかで感じてしまう怖い物語でもあります。
友達を探す前に、先ずは自分一人でしっかりと生きて行く。そんなメッセージも「きみの友だち」には含まれていると思いました。
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