エンジェル×エンジェル×エンジェル=負のエンジェル?
梨木香歩さんの描く少女は、いつも『いい子』です。そして、当人はそんなイメージは作り物だと気付いている気がします。この作品は、特にその傾向が顕著で、主人公は自分の心の不安定さとコーヒー依存を抑えるために、熱帯魚を飼うことを親に許してもらいます。結果的にですが、それは祖母の夜のトイレ介助を引き受けることと引き換えという形になり、ここでも図らずも『いい子』にした結果得た成果という形が描かれています。そんな作られた『いい子』が選んだ熱帯魚がエンジェルフィッシュ、天使というのはなんとも寓意的です。 そして、その熱帯魚の水槽のモーター音が祖母に少女時代の心の傷を思い出させ、孫と秘密の会話をするきっかけとなります。祖母の傷とは、心の中では大切だと思っていた2人の人、憧れのクラスメートと姉のように慕っていたお手伝いの女性を攻撃してしまったという思い出です。それが、水槽の中で繰り広げられる熱帯魚同士の殺し合いと重ねられて語られていくのです。 結局、最後に生き残ったエンジェルフィッシュは恐怖と憎悪の対象となるのですが、不注意で死なせてしまった後になって、不意に赦しの言葉が零れます。それを聞いた後、祖母は自分が赦されたかのように穏やかに死を迎えます。そして、死後、お手伝いの女性が祖母に残した手彫りの天使像を孫が見つけるのですが、それは、手彫りゆえに悪魔の羽のようにも見える荒々しい力強さをもっています。なんだか、その悪魔のような羽をもつ天使というのが、人は天使であり悪魔で、それが自然な姿というメッセージという気がしました。
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