あまりに哀しい恋の物語 - 陰陽師 生成り姫の感想

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陰陽師 生成り姫

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あまりに哀しい恋の物語

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夢枕獏さんの伝奇小説シリーズの1つ、『陰陽師』初の長編です。野村萬斎さん主演の映画の原作にもなっているので、そちらでご存知の方もいるかと思います。 『陰陽師』シリーズは、稀代の陰陽師である安倍晴明と管弦の才能あふれる実直な貴族である源博雅の2人を主人公とした短編集という形式を取っていますが、これはその中の『鉄輪』を長編化したものです。話の筋としては、博雅が2つの相談を晴明にもちかけます。ほのかな恋心を寄せていた名も知らぬ姫が生霊となり助けを求めてきたという相談と、知り合いの貴族が呪詛されており、その恋人が鬼に殺されたという相談です。その2つはやがて絡まり合い、呪詛していたのは生霊となって現れた姫であるという展開となります。 よくあるドロドロのメロドラマと言えますが、姫が本当に鬼となってしまうのは、呪詛し、自らの手で復讐しようと人殺しに手を染める浅ましい姿を博雅に見られた絶望感がきっかけであるということと、呪詛しようと、再び愛を手に入れることなどできないとわかっていても鬼にならざるを得ないことを当人が自覚していること、この2つがたまらなく哀しいのです。 もし、博雅が強引にでも好いた姫を己のものにするような男であれば、こんな展開にならなかったかもしれない……しかし、そんな男であれば姫もそこまで博雅を大切に思うことはなかっただろう……そして、それは私が思うまでもなく、博雅自身もわかっているのだろう。 運命の神の悪戯としか思えないほど、かみ合わない縁がたまらなく哀しく、それでも生きていかなければならない人間がたまらなく哀しいのです。一方で、それだからこそ人が人を愛することは、とても素敵なことだと思わずにはいられないのです。 とにかく、この哀しみと愛しさは言葉では伝えきれません。ぜひ一度読んでみてください。

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