意外と地味な作家の日常のぞき隊。
結婚・離婚を経て一人暮らしを始めた作家の、日常を綴った日記エッセイ。 仕事の進捗具合や打ち合わせに出掛けたこと、家にこもりきりで外出できないこと、飲んで寝てしまうことなどを、一見あけすけに書き綴っている。 驚くべきは、その読みやすさである。「仕事のこと」で書いてあるのは編集者とのやりとりと、具体的な枚数、できたかできないか、のみである。すらすらできない自分に対しての苛立ちは書かれているが、「何に」悩んでいるのかはいっさい書かれていない。 日記とはいえ、性的なこと、男女関係についての記述は、著者の思考・妄想をのぞけばやはり書かれていない。 とてもさりげなく綴られ、一般的な「だめだめな自分」をなだめ、励まし、ときに自堕落でいることを意識してはいるが、本編はとても意識的に組み立てられた文章である。 それでいて自然さを失わず、読者に「ふつうの日記」と写るよう腐心されている。 あらためて山本文緒の筆力の高さに驚かされる。 …などという小難しいことを考えるまでもなく、意外と(?)地味な作家の日常を味わうのが本書の正道だろう。 巻末のヘンな小母さん「クミコ」との旅行記は、ホット&クールで可笑しくて楽しい。
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