死神の精度の感想一覧
伊坂 幸太郎による小説「死神の精度」についての感想が5件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
死のせつなさ
”死神”が主人公の連作短編集。彼自身が人間を殺すようなことをするわけではなく、選ばれた人間が死ぬにふさわしいかどうか、「可」か「見送り」かどうかを決めるだけ。6つ収録されているお話の中で、「恋愛で死神」が一番せつない。ひどく悲しいし哀しい。それが最後の話にもつながっていて、でも明かされないままのこともあって。読後感が絶妙だな、と思う。この胸に残る感情を、どう表現したらいいのか分からない。「一番最悪なのは」「死なないこと」「長生きすればするほど、周りが死んでいくんだよね。当たり前のことだけど」という一連の台詞が実に重みがあって、人が死ぬということの重たさが染みた。
死神のイメージが変わる。
死神というと人の死を操って命を奪っていく、というイメージでしたがこの本を読んでイメージが変わりました。死神は、名前は都市の地名、姿はターゲットごとに変えられ素手で人間に触れてしまうと寿命を1年縮ませる、そしてミュージックをこよなく愛する。人間ではないけれど、なんとなく怖いイメージではないですね。死神の仕事も命を直接奪うのではなくて、死ぬ予定の人の生活を観察して死ぬのを「可」とするか「見送り」とするかの判定する、という設定が面白かったです。本人には死ぬことを知らされていないので動作や行動の1つ1つが生きているものとして際立つ感じがします。何人の人が「可」となり「見送り」となったのでしょうか。読んで損はしません。
死神は怖いだけじゃない
生死をテーマに掲げた作品は、小説でも映画でもドラマでも舞台でもこれまでにたくさん作られてきたかと思います。そんな中、わたしは「死神の精度」がある意味一番生死の境を鮮やかに描いた作品なのではないかなと思います。 死神の好きなものが人間界の文化だったり、本人はいたってマジメそうでも不思議な会話のキャッチボールが行われたり、どことなくずれた雰囲気が素敵でした。 人の生死を見極めるという立場ながら、ヒトのようにものを考えたり行動したりする姿は、これまで自分にあった『死神』という存在の概念を変えてくれました。ただ怖いだけに描かれていないところがすごく良かったです。
雨天、あなたの隣に死神がいる
死神はミュージックが好きだ。仕事の合間にCDショップに行く。死神は都道府県名を苗字にしいている。死神の容姿は案件により変わる。死神がいるときは雨だ。青空を見たことがないという。死神は、調査対象である人間を7日間観察し、「可(死を与える)」にするか「見送り(天寿を全うさせる)」にするかどうか決断を下す。本作品は、2006年に「本屋大賞」第3位を受賞している。本屋大賞受賞作はやはり読みやすい。すぐに本の世界に入り込むことができる。ちなみに、本作品は映画化もされている。死神 千葉役を金城武さんが演じている。映画の死神の方が冷酷さが薄い。映画も面白いので、鑑賞することをオススメする。
死神と人間の関係
名前が地名、雨男で、素手で人間に触れられない、受け答えがちょっとずれている、死神の「千葉」1週間、対象となる人間を調査して、その人が生きるか死ぬかを裁定するお仕事。キャラクター設定や、CDショップでミュージックを聴いてるくだりなんかもとても面白く、そして伊坂氏の得意とする巧妙な伏線とオチはこの作品でも健在でした。千葉が殺人犯と共に車で湖まで行く話が一番好きです。それにしても伊坂氏の小説は、あまりにも狙いすぎなんじゃないだろうかと思うほど、最後に素晴らしいオチがあります。それが時々鼻に付くのですが(笑)、あんまり難しい本は読みたくない、とにかくスカッとした本が読みたい、そんなときに読む小説としては伊坂氏の作品はピカイチだと思います。