空飛ぶタイヤのあらすじ・作品解説
『空飛ぶタイヤ』は「半沢直樹」シリーズで有名となった作家、池井戸潤が2006年に刊行した小説である。第28回吉川英治文学新人賞を受賞し、2009年には有料放送の連続ドラマ枠にて仲村トオルを主演にドラマ化された。大手自動車メーカーのリコール隠しという、実際に起きた事件を題材にした作品であり作者の初となる本格経済小説である。 赤松徳郎は短気だが陽気な性格で、父親から引き継いだ運送会社の社長として日々奮闘していた。しかしある日、自社のトラックが脱輪事故で死傷者を出してしまい、事故の原因が車体の整備不良にあったという調査結果によって赤松と彼の会社は窮地に立たされてしまう。しかし自社の整備になんら不手際はなく、むしろ事故原因は車両そのものにあったと確信した赤松はトラックの販売元である大手自動車企業に戦いを挑む。自分自身と家族、社員、そして被害者家族のために理不尽な大企業の論理に立ち向かい真相を追及していく濃厚な人間ドラマが描かれている。
空飛ぶタイヤの評価
空飛ぶタイヤの感想
空飛ぶタイヤを読みました。
実際に起きた大企業の不祥事を題材にした物語です。運送会社である赤松運送のトラックが、タイヤ脱落事故を起こし(タイヤが車体から外れて空を飛ぶ。。。魔術でもない限りありえない、本来あってはならないことが現実に起こった事故)、一児の母である女性が亡くなる。赤松運送社長は、トラックの製造元であるホープ自動車の調査結果から、『整備不良』と結論づけられます。しかもその調査は、事故を起こしたトラックの製造元、財閥系の巨大企業、ホープ自動車であったため、警察、遺族、誰もがその調査結果を信じます。しかし、赤松は自社の完璧な整備記録を見て、事故の原因は『整備不良』ではないことを確信します。人命の危険に直結する重大な過失、その原因となる真相はどこにあるのか。。。もちろん、表からは見えない複雑怪奇なタネやシカケがあるわけで。。。さまざまな人間模様のディテールが丁寧に描かれています。池井戸作品の最高傑作だと思いま...この感想を読む
主人公の生き様に魅せられる
実際にあった事件を題材としているであろうと思われるストーリーなので、手放しで「面白い!」とはいえませんが、最初からひきこまれ読む手がとめられませんでした。走行中のトレーラーのタイヤが外れ、歩行中の親子に直撃。子どもは助かったが母親は帰らぬ人となってしまい・・その後運送会社の社長、赤松にのしかかる困難。中小企業だけれどまじめに仕事してきたにもかかわらず、これでもかこれでもかと赤松にのしかかってくる。不屈の闘志、信念で立ち向かっていく姿に最後は「正義が勝つ」ということで終わらせてもらいたいと願う。事件を取り巻いている関係者のそれぞれの展開が同時列に進んでいき読者を夢中にさせる工夫を感じました。下巻に続きます。
ドラマティックな企業犯罪エンタテインメント
最初タイトルを見たときは「?」となりましたが、読み始めて実にシニカルなタイトルなんだ!と納得。高速道路などでトラックと乗用車の事故など報道されることはよくあるし、とてもリアルな設定だと思います。事故に巻き込まれた被害者、事故車両の会社、事故車両を作った会社、とそれぞれの立場の人たちが、それぞれの理屈で動くさまを書き切っていながら、話が混乱することなくスッキリしているのは見事です。特に企業内の小競り合い、倫理と社内政治の相克の部分は、わかりやすく戯画化されている感じもありますが、おもしろく読めました。主人公の社長がどうなってしまうのか…実はもっとも気がかりなのは社長の息子の問題だったりして。