芋虫のあらすじ・作品解説
芋虫は、1929年に、博文館発行の雑誌「新青年」に掲載された、江戸川乱歩による短編小説である。当初、編集者の意向により「悪夢」というタイトルで発表されたが、その後の全集の発行の際に、もとの名前に戻されている。 この作品は、エリート将校の妻となった須永時子と、その後、戦争で四肢や聴力なども失って帰還した夫、須永中尉との夫婦の物語である。四肢を失い、妻との性交だけを生きる楽しみとしていた夫を虐げることを、妻はいつしか楽しみとするようになり、ある時、ふとした気の迷いから夫を失明させてしまう。しかし、夫はそのことがきっかけで、妻のもとから失踪し、井戸に投身してしまうというストーリーである。 2005年11月には、オムニバス映画の「乱歩地獄」という作品の中の一つとして、松田龍平主演で公開されている。また、同作品が原作とされる「キャタピラー」は、主演の寺島しのぶがベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞するなど高い評価を受けている。
芋虫の評価
芋虫の感想
芋虫のような、肉塊のような夫
こんな姿で、生きてるって言えるの?戦争から帰ってきた夫・須永中尉の姿はもう昔の夫の姿ではなかった。両手両足…四肢を完全に失い聴覚と味覚も失った。人の姿をした何か別のものにさえ見える夫を献身的に介護していくうちに須永の妻・時子は次第に夫を虐げることに快感を感じていく、「芋虫」と化した夫は最早人ではなく時子の玩具。世間から隔離されたような家で起こる異形の夫と妻の倒錯的小説。この小説は1929(昭和4年)に本格推理小説雑誌「新青年」にて掲載された小説。初めは「悪夢」と題されていましたがのちに「芋虫」に戻された。小説内に反戦的な表現と勲章を軽蔑するような表現があったことで編集者が当局の検閲を気にして娯楽雑誌だった「新青年」に回された。それでも伏せ字だらけの掲載で発表され、この小説は戦争中江戸川乱歩の小説は一部削除が命じられたものが多かったことに対して「芋虫」は全編削除だった伝説とでも言っていい小説。...この感想を読む
江戸川乱歩、裏の代表作
探偵か、犯人か、江戸川乱歩作品の2つの顔海外のミステリー作品を日本に紹介し、自身も作家であった江戸川乱歩。代表作は『少年探偵団』や『怪人二十面相』を挙げる人がやはり多いだろうか。しかし、私はあえて言おう代表作は『芋虫』であると。いわゆる明智小五郎シリーズは小学校の図書室にも並んでいる超有名作品たち、いわずもがな。子供のころ手にとった人も多いはず。悪い奴らを知恵と勇気でやっつける、そんな作品。しかし、江戸川乱歩の真骨頂はエログロにこそある。と思う。この『芋虫』、ホント気持ち悪いです。戦争によって、体の大部分を失ってなお生きる夫。それをおもちゃのように苛む妻。明智シリーズにもエログロの要素はあるけれど、濃度のレベルが半端じゃない。勧善懲悪な作品を読んでいるときは探偵の気分。エログロ作品を読んでいるときは犯人の気分。どちらが好みかは自分の胸に聞いてみて。戦争文学と呼ばれるのはなぜかこの作品が...この感想を読む
愛情と憎悪がひしめく乱歩作品
昔持っていた芋虫の小説が見当たらなく、ベスト・セレクションを購入してみました。表題である芋虫は身体の不自由な元軍人とその妻の物語。入り交じる憎悪と愛情、狂気が素晴らしく表現されています。見た目の醜い夫と早退して、人間の奥底にある醜い感情をもつ妻、2つが合わさるとこのような狂気が生まれるのですね。気持ち悪いさと不気味さがありながらどこか美しいと思ってしまう。悲しさややるせなさも感じますが、夫婦の愛情も垣間見る事ができる、さすが乱歩といえる作品でしょう。ちなみに、これは伏字がされているバージョンです。昔持っていたものは伏字無しでしたので、そちらの方がよかった。