江戸川乱歩、裏の代表作 - 芋虫の感想

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芋虫

4.334.33
文章力
4.17
ストーリー
3.67
キャラクター
4.00
設定
4.50
演出
4.33
感想数
3
読んだ人
4

江戸川乱歩、裏の代表作

4.04.0
文章力
3.0
ストーリー
3.0
キャラクター
4.0
設定
5.0
演出
4.5

目次

探偵か、犯人か、江戸川乱歩作品の2つの顔

海外のミステリー作品を日本に紹介し、自身も作家であった江戸川乱歩。代表作は『少年探偵団』や『怪人二十面相』を挙げる人がやはり多いだろうか。しかし、私はあえて言おう代表作は『芋虫』であると。

いわゆる明智小五郎シリーズは小学校の図書室にも並んでいる超有名作品たち、いわずもがな。子供のころ手にとった人も多いはず。悪い奴らを知恵と勇気でやっつける、そんな作品。

しかし、江戸川乱歩の真骨頂はエログロにこそある。と思う。

この『芋虫』、ホント気持ち悪いです。

戦争によって、体の大部分を失ってなお生きる夫。それをおもちゃのように苛む妻。

明智シリーズにもエログロの要素はあるけれど、濃度のレベルが半端じゃない。

勧善懲悪な作品を読んでいるときは探偵の気分。エログロ作品を読んでいるときは犯人の気分。どちらが好みかは自分の胸に聞いてみて。

戦争文学と呼ばれるのはなぜか

この作品が発表されたのは1929年。世界恐慌真っ只中。ここから数年後、満州事変とかそういう物騒な事件が起きて世界中がピリピリ緊張状態に入っていく、そんな時代。

そんな中に発表されたにしては表現が自由すぎますよね。もちろん何度も検閲に引っかかって発表当時は伏字だらけだったそう。それでも誰かが「この作品いい!」って言わないことには現代まで伝わりません。

「この作品いい!」って言ったのは左翼の方々。戦争の悲惨さを表しているところがお気に召したようですが、

この作品は反戦作品ではありません。

それは江戸川乱歩自身が左に好かれようが、右に嫌われようがどうでもいいと語っています。

作品で語られているのは「人間の本質」。自分しか頼る縁がない人間を責め苛み、肉欲を満たすためのおもちゃにし、他人のすべてを支配しないと気が済まない。それが人間。すべての感覚を失って、地獄の暗闇に落とされてなお「ユルス」。それも人間。

芋虫とは誰か

作品のタイトルは『芋虫』だが、発表当時は『悪夢』という題名だったそう。

『芋虫』の方がインパクトあるが、なぜわざわざ変えたのか。

当局に睨まれた作品だから、目くらましの意味もあったのかもしれないが、ミステリー作家がそれだけでタイトルを変えますかね?

作中で「悪夢」にうなされて目を覚ますのは妻の方なのだ。

原題の『悪夢』のままなら、そのまま妻の悪夢のような日々をつづったものだと理解するが、題が『芋虫』に変わったことで俄然夫に注目が行く。

しかし「芋虫」とはひどい。ほかにもいびつなコマとかとても現代では耳にしない言葉で夫はけなされている。好きでそんな格好になったわけではないのに。夫かわいそう。

この作品が書かれた時代の障害者はとにかくひどい扱いを受けていた。見世物小屋で文字通り見世物にされたり、人権なんてない時代だった。

そのような時代に「芋虫」になってしまった夫だが、彼は時々まっすぐ天井を見つめたり、妻を叱責するようなまなざしを向ける。

その目線に妻は怯え、いらだつ。まるでこう言っているようだから

「不自由なのはどっちだ?」「けだものなのはどっちだ?」「芋虫はどっちだ?」

その目線は妻を通り越して、小説を読む自分にまっすぐ注がれてる

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芋虫のような、肉塊のような夫

こんな姿で、生きてるって言えるの?戦争から帰ってきた夫・須永中尉の姿はもう昔の夫の姿ではなかった。両手両足…四肢を完全に失い聴覚と味覚も失った。人の姿をした何か別のものにさえ見える夫を献身的に介護していくうちに須永の妻・時子は次第に夫を虐げることに快感を感じていく、「芋虫」と化した夫は最早人ではなく時子の玩具。世間から隔離されたような家で起こる異形の夫と妻の倒錯的小説。この小説は1929(昭和4年)に本格推理小説雑誌「新青年」にて掲載された小説。初めは「悪夢」と題されていましたがのちに「芋虫」に戻された。小説内に反戦的な表現と勲章を軽蔑するような表現があったことで編集者が当局の検閲を気にして娯楽雑誌だった「新青年」に回された。それでも伏せ字だらけの掲載で発表され、この小説は戦争中江戸川乱歩の小説は一部削除が命じられたものが多かったことに対して「芋虫」は全編削除だった伝説とでも言っていい小説。...この感想を読む

4.54.5
  • 雅
  • 404view
  • 2444文字
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