疲れたと口にすることができるのは、しあわせな証拠だったのだと初めて知った。心を許せる人が聞いてくれるから、疲れたと言えるし、ため息もつけるのだ。
津川麻子
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スコーレNo.4は宮下奈都の小説で、物語は4つの章からなる。スコーレとは学校を意味し、一人の不器用な女性が中学、高校、大学、そして就職するまでに4つのスコーレを体験して成長する姿を描く。 中学生の麻子は骨董屋の三姉妹の長女で、昔ながらの住居で家族と暮らしている。麻子は自分があまり器用な人間ではないと感じながら生きているのだが、一つ下の妹は可愛く聡明だったので、そんな妹と自分を比較して余計に惨めな気がしてくるのだった。高校を卒業し、親元を離れて大学に進学する麻子だが、相変わらず何かに引け目を感じながら生きていた。大学時代には恋人もできたが、就職してからはその関係もうまくいかない。ところが、就職した企業の研修先の靴屋で、麻子は自分の思わぬ能力に気づく。骨董屋で育ったせいか、靴の値段を正確に当てることができるのだ。その後も苦しみ悩む日々は続くのだが、少しずつ麻子は仕事にやりがいを見出し、自分の居場所を見つけていく。
あの時のわたしは…主人公の日常に、自分の思い出を呼び起こされる初めて読んだとき、主人公の麻子に対する共感を飛び越えて、「わたしのことかな?」と驚いたほどです。自分より可愛く、要領のいい妹へのコンプレックス。自分が自分じゃなくなったような初恋。社会に出て直面する、居場所のない感覚。仕事で初めて得る達成感。それぞれの章の麻子の環境に自分を重ねてしまって、「わかる!そうそう、そうなんだよねー!」と頷きどおしでした。中学生から今までの自分が経験してきたスコーレを思い浮かべ、幼いころの家族のワンシーンや、しばらく会っていない昔の友達、憧れだけで終わってしまったひと、甘さと苦さの混ざったような感覚を引き起こされました。大切なものを見つけながら、少女から大人へ変化していく特に、麻子が社会に出てからの「No.3」「No.4」の2章は、ちょうど自分自身の仕事の挑戦の時期に読んだこともあって、お守りのように繰り返し...この感想を読む
骨董屋主人の父、その家に嫁いだ母、不思議な決まり事を持つ祖母、美人な真ん中の妹の七葉、末っ子で天真爛漫な紗英の5人家族、3姉妹の長女、麻子。小さい頃の大半を過ごす家庭、恋を知る学生時代、何をしたいか何ができるのかを模索する就職時代、仕事を始めて気になる男性をみつけて、それからの時代の4つのスコーレ(=学校)に分けてそれぞれの時代での麻子の成長物語だと思います。描写が丁寧で、きちんと前半に伏線がたくさん張られてあって最後にうまく収束していく、というキレイな物語でしたが人の好き嫌いがでるのかもしれません。私は、そこまで感情移入しなかったかも。後半は少し入り込めたけれど、前半はキレイな文章だなぁと思いながら客観的に読んでいた感じがします。
ひとりの女性の成長を描いた長編小説。スコーレは学校。中学・高校・大学・就職・・・。その時々で主人公が感じることを丹念に綴ってある。こんなにも繊細で胸に迫る成長の物語は他には無いと思う。妹たちに思うこと。祖母の不思議なこだわり。父の仕事に対する姿勢。母の母としての人生。瑞々しい初めての恋。etc.etc...一つ一つの出来事の描写が本当に丁寧で、主人公の人生を追うと同時に自分の人生についても考えさせられる。何回読んでもその都度考えさせられることが違って、何回も読んでしまう。そして救いが、懸命に生きている主人公を愛おしむような救いが最後に待っていて、それがとても素晴らしい。すべての人に勧めたい小説。これ書きながらももう一度読みたい。きっとこの先の人生の中でも何度も手に取ってしまうと思う。
津川麻子
主人公が初めて社会に出て、うまこ仕事が出来ない自分に落ち込むシーン。仕事終わりに、何も役立っていない自分が「疲れた」と口にすることも躊躇い、これまでの生活と現状を比べてしまうシーン。
津川麻子
愛せるものを探して焦っていた主人公が、初めてこころから愛するひとに巡り合って、満たされた時のモノローグ。