イノセント・ゲリラの祝祭のあらすじ・作品解説
海堂尊による大ヒット作、チームバチスタの栄光シリーズの4作目として宝島社か2008年に刊行された長編ミステリー小説である。 イノセント・ゲリラの祝祭はバチスタシリーズの名コンビ、田口&白鳥ではなく、白鳥の後輩にあたる病理医の彦根が登場し、田口と共に巧みな話術で厚生労働省の会議室に潜む魑魅魍魎達に立ち向かう物語となっている。 海堂作品の、東京都二十三区内外殺人事件とシンクロする場面も見られ、シリーズを通して問題提起されているAI導入に関わる医療、司法の軋轢が主なテーマとなっている。 厚生労働省主催の会議がどの様なものであるのかを、よりリアルに、読者に分かりやすくコミカルに描く事ができたのも、実際の医療現場に従事する作者ならではの作品となっており、お馴染みの田口イジリ、彦根の毒舌も人気の作品である。 本作品は厚生労働省の会議室でのやり取りが主となっているため、バチスタシリーズで唯一映像化がされず、バチスタシリーズのドラマ、映画共に小説内の彦根の登場シーンは全て省かれている。
イノセント・ゲリラの祝祭の評価
イノセント・ゲリラの祝祭の感想
とにかく議論が続く
単行本とは少し内容の異なる本書。内容に「東京内外殺人事件」という未収録作品が足されているらしい。田口が東京で遺体を見つけるところから始まり、「今回はミステリー路線なのかな」と思いきや、メインの舞台は厚生労働省の会議室。そう、今作は下巻まで渡って、ほとんど議論しているだけで進んでいくのだ。著者の一医療人としての思いが強く前面に押し出され、法というものが傲慢に描かれているので、少々違和感を抱いてしまった。法も少しずつ変化しながら人を守る。少なくともそれがあるべき姿なのだが、人を救う医療を阻むものとして書かれすぎている。議論には迫力があり、会議室という地味な場所でありながら見事にエンターテイメントしている。個人的には、もう少し登場人物の人間性にも焦点をあてて欲しかったが。
ミステリーではなくセッション。だが面白い
田口・白鳥シリーズといえば、テレビドラマ化もされた医療サスペンスというイメージが強い。が、本作は異色中の異色。そもそもミステリー小説ですらない。しかし論戦シーンの駆け引きや様々な工作活動、そして結末に至るまでの痛快さは十二分すぎるほどのエンタテインメントに仕上がっている。まず今回は、田口がなんと厚生労働省に呼ばれ審議委員として議論に参加するというものである。しかも厚労省内の官僚たちによる権力闘争や法制度が抱える深刻な問題点、そして審議会の在り方などが絡み合うのだから厄介極まりない。そんな魑魅魍魎が住むお役所の中で、絡んだ紐を解きほぐしてくれる存在が白鳥である。彼の存在なくしては物語は収束しえない。ミステリーからディスカッション劇へと舞台は変えても、彼のキャラクターが読後感に大きくかかわっているのは間違いないだろう。本作は題材もあってか、いまだ映像化されていない。しかしながら、シチュエー...この感想を読む