ミステリーではなくセッション。だが面白い
田口・白鳥シリーズといえば、テレビドラマ化もされた医療サスペンスというイメージが強い。が、本作は異色中の異色。そもそもミステリー小説ですらない。しかし論戦シーンの駆け引きや様々な工作活動、そして結末に至るまでの痛快さは十二分すぎるほどのエンタテインメントに仕上がっている。 まず今回は、田口がなんと厚生労働省に呼ばれ審議委員として議論に参加するというものである。しかも厚労省内の官僚たちによる権力闘争や法制度が抱える深刻な問題点、そして審議会の在り方などが絡み合うのだから厄介極まりない。 そんな魑魅魍魎が住むお役所の中で、絡んだ紐を解きほぐしてくれる存在が白鳥である。彼の存在なくしては物語は収束しえない。ミステリーからディスカッション劇へと舞台は変えても、彼のキャラクターが読後感に大きくかかわっているのは間違いないだろう。 本作は題材もあってか、いまだ映像化されていない。しかしながら、シチュエーションコメディ(?)としては一級品である。同時に、現代の医師が置かれた立場について大きな問題提起を投げかけてもいて、小説ではありながら読者への強いメッセージが込められた作品でもある。
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