きみは誤解しているの評価
きみは誤解しているの感想
勝負師未満、「賭ける人」の物語。
著者得意の競輪にまつわる人間模様を描いた短篇集。阿佐田哲也へのリスペクトともいえる「遠くへ」、車券を買わない男と、男の元から男の兄の元へ去った女と、男が偶然行き合わせた、競輪に染まりはじめの女の物語「人間の屑」など、独特のクセを持ちながら、読者を巻き込み一気に読ませてしまう、独特の文体によってつむぎ出されたグランジ・ワールドが胸を打つ。巻末には著者自身による競輪用語の解説が入っていて、これがまたおもしろい。これはいわゆる「ギャンブル小説」ではない。作中の競技の、勝敗の行方が物語の中核に据えられているわけではないからだ。登場人物たちは車券を買ったり買わなかったり、車券を買うということについて哲学を持っていたりする。勝負師未満の人達が息づく、賭ける人の小説だ、そう言っていいと思う。