すべてがFになる The Perfect Insiderの評価
すべてがFになる The Perfect Insiderの感想
変数的動機の確定と萌えキャラたち
理系というより、割り切れている記念すべき森博嗣の第一作目、書いた順番では実は四番目、そんな本作「すべてがFになる」。内容が衝撃的で理系ミステリィとかいうわけのわからない呼び名で呼ばれちゃうこともあるが、シリーズ全体はそこまで理系なわけではないのは、読めば誰でもわかること。本作で提示された諸々の要素は、当時では小説として実に画期的であった。これに限らずこの人の作品というのは、割り切り方に大きな特徴があると言っていい。普通だとこだわりたくなる部分をこだわらない、気になるところを意味がないと切り捨てる。その姿勢が、おそらく他との違いを生んだのだろう。おかげで、「森博嗣は人間が書けていない」と言われたこともあったようだが、この意見にはたくさんの人が失笑していたらしい。作者本人も、別シリーズで何度もネタにしているくらいだ。実際問題、森博嗣さんの人間描写は、秀逸であると表現しても何ら問題のないもの...この感想を読む
3人の森博嗣について
彼は工学博士である森博嗣は小説家である以前に工学博士である。本作は続く「S&Mシリーズ」の記念すべき第1作目に当たるが、シリーズを通してその知識は惜しげもなく披露されている。彼の作品が「理系ミステリー」と呼ばれているのはこれが理由だ。もし理系という言葉を見ただけで敬遠してしまった読書家がいたらそれはきっと大きな損失となるだろう。読んだ人は皆感じたと思うが、彼の作る世界で私たちは工学博士になれる。この本を読んでいくと文系を学んだ者にとっては初めて聞く専門用語がたくさん登場する。それを文脈で、または自ら調べて大まかに理解していき、彼の作ったトリックを彼の動かすキャラクターたちが推理していく様子を眺めていく。それだけで読者はまるで理系の天才になったかのような気分を味わえる。真賀田四季が残した『すべてがFになる』という、タイトルにもなっているメッセージがすべての答えになっている。16進数に気がつけ...この感想を読む
未来は見えている
始まる夏暑い夏の日、西之園萌絵が天才科学者真賀田四季と会話するシーンから物語は始まる。まずこの会話から最初に読者が感じるモノは四季の怜悧で論理的な思考、そして西之園の飛躍する思考の対比だろう。四季は初見から西之園の思考をトレースすることで会話をリードするし、西之園はその飛躍する思考を存分に発揮して四季の思考に追いつこうとする。しかし、会話を読みすすめるうちに、いつのまにか、この二人は似ている。と思わされる所に森博嗣の巧妙さがある。最初は対比関係にあった二人の女性が、会話をしているうちに混ざり合い読者を知性の深淵へ導いてくれる。そしてこの知性の深遠さこそが、作品のテーマとなっているのだ。会話のページはわずか10ページほどだったと思うが、その最初の10ページが森作品のテーマを象徴しているのは非常に興味深い。この夏の日から全ては始まっていくのである。予見された未来本書が出版されたのは1998年である...この感想を読む