ミスリードに騙されるべからず
主人公の正体は自明本作はスカイ・クロラシリーズにおける、一つの集大成である。文章に凝らされた工夫の質が、明らかに他とは一線を画している。おかげさまで、短編集を除けば単体でもそこそこ読めるシリーズの中で、この話だけは初見の人にはまるで意味がわからないだろう。主人公が誰なのか断定する文章がないことでお馴染みの本作ではあるが、終盤の展開を考えれば草薙であることがはっきりする。「主人公は作中を通して一人である」と作者が明言している以上、人物の入れ替わりも起こりえない。注射を打たれてキルドレに戻ったなんて描写がある時点で、草薙水素が主人公であるのは自明なのだ。「上司の女」「あなたを撃ったことが一番の罪」などの文章は、意図的にぼかしたニクい表現というわけであるが、こういうものは意外な方が正解であるというのが世の常である。なぜ、はっきりとわからない文章を選んだのかとメタ的に考えられると、叙述トリック...この感想を読む
4.04.0
PICKUP