穏やかな雰囲気ながらも、どこか背筋がぴんと伸びる思いがする、梨木香歩の「家守綺譚」 - 家守綺譚の感想

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家守綺譚

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文章力
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ストーリー
4.63
キャラクター
4.63
設定
4.63
演出
4.75
感想数
4
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穏やかな雰囲気ながらも、どこか背筋がぴんと伸びる思いがする、梨木香歩の「家守綺譚」

4.54.5
文章力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.5

南禅寺のほど近く。学生時代に亡くなった親友・高堂の家の守をすることになった綿貫征四郎は、細々と文章を書きながら、貧しい生活を送っています。

そんな征四郎の前に、ある雨の日に現れたのは、死んだはずの高堂。床の間にかかっている水辺の風景の掛け軸の中から、ボートに乗って出てきたのです。

舞台となる時代としては、明治か大正のようです。まるで夏目漱石の「夢十夜」のような雰囲気の小説です。植物を題名に持つ短い物語が28収められています。現実の世界と異界の境目が曖昧で、ごく当たり前のように、不思議なことが主人公の周りに起こります。

それは亡くなったはずの高堂が掛け軸の中から出てきたり、主人公がサルスベリの木に惚れられたり、河童や小鬼といったあやかしが出てきたり、しかも河童と犬のゴローが懇意になってしまったりというようなこと。しかしそれらの不思議は、この世界の中にごく自然に存在していますし、そこを流れているのは、あくまでも静謐でゆったりとした空気。

たまに主人公が妙な現象を目にして慌てていると、隣家のおかみさんが「それは○○ですよ」と、これまたごく当たり前のように答えているのも実にいいですね。こういった雰囲気は大好きです。現実にもあればいいなと思ってしまうのですが、しかし、こういった存在は、今も私たちの身の回りに変わらずいるのかもしれません。

おそらく、人間の目には見えなくなっているだけなのではないでしょうか。そして、主人公と高堂の2人は、まるで、京極夏彦の小説のように、京極堂と関口君のようにいいコンビですが、隣家のおかみさんはもちろん、和尚や長虫屋や犬のゴローなども、とてもいい味わいを出しているんですね。


この1冊で、京都の四季の移ろいを味わえるのも嬉しいところです。読んでいると、穏やかな雰囲気ながらも、どこか背筋がぴんと伸びる思いがします。こういう物語は本当に大好きです。手元に置いて、折にふれて読み返したくなるような、そんな作品です。

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平凡でいることの難しさ

俗物な主人公と超然とした高堂たぶん、読みおわって、皆不思議に思うと思う。なぜ主人公は葡萄を食べず、高堂は食べてしまったのか。なにかと迂闊で能天気な主人公のほうがうっかり手をだしそうで、いつも冷静で神経質そうな高堂のほうが、下手なことをしなさそうだ。ただ、高堂には少々鼻がつくところがある。主人公を俗物あつかいして小馬鹿にし、あやかし関連のことに、いちいち目を白黒させる主人公を尻目に、たかがそんなことで、というように涼しい顔をしている。たしかに、知識の深さも見識の広さも高堂のほうがあるし、自分で誇ってもいるのだろう。にも関わらず現世では、満たされなかったのかもしれない。主人公が湖の底に行ったとき、葡萄をすすめてくれた人がこう言っている。ここにいればいいと。心穏やかに、美しい風景だけを眺め、品格の高いものとだけ言葉を交わして暮らして行ける。何も世俗に戻って、卑しい性根の俗物たちと関わりあって...この感想を読む

4.54.5
  • オコネオコネ
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