高校生たちの青春群像劇 - 名前探しの放課後の感想

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名前探しの放課後

3.753.75
文章力
4.25
ストーリー
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キャラクター
4.25
設定
3.75
演出
3.75
感想数
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読んだ人
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高校生たちの青春群像劇

3.53.5
文章力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
設定
3.5
演出
3.5

目次

反則で負けたような気分

うん、辻村深月はすごい作家だと思う。この作品が素晴らしいというわけではなくて、きっと書くことを楽しんでいるのだろう。私は辻村深月のファンというわけではないのだが、強くすすめてくれる人があって、何冊か読んでみた。読む順序があったりして難しいらしい。コレの次はコレなんだよとまで指示される。と、いうわけで順序を守った上でのこの『名前探しの放課後』なのである。

私は本を読む時は、減点方式。それって楽しいの?とよく聞かれるのだが、性分なので仕方がない。特にミステリーを読む時は伏線を見逃さないように、気を配っている。作家との勝負を受けて立っているようなつもりで読む。だから、この物語を読み始めて「同じ学校の子が自殺するのだけど、それが誰だかわからない」という書き手に都合の良さそうな、謎を投げかけられた時に「その同級生は依田いつか」本人ではないかと予想していた。散々大騒ぎして「え?オレだったの?」というパターンだ。

物語は進んでいき、河野くんが自殺の候補として挙げられる。いやいや、そんなはずがない。だって、この作家さんはどんでん返しというものが大好きみたいじゃん。河野くんは絶対にかませ犬だと自信を持って読んでいた。いじめられるイコール死んじゃうって小説のなかでの考えにしては安直過ぎない?それはないだろうと思っていた。私の予想が当たったのはそこまでだった。

辻村深月、ちょっとそれはないでしょうというのが結末だった。伏線といえば、今思い返すと、義兄がスーツを着用して「グリルさか咲」へ挨拶にいったところだったのか。

ちょっと動機が甘くないですか

結局、自殺する人は、自殺阻止グループのサブリーダー的存在のあすなちゃんだった訳だけど、それならそれでいいの。でもね、その動機がちょっと信じられないくらい甘い。甘すぎる。おじいちゃんが亡くなって、最期に看取ることができなくて、天涯孤独になったからって普通自殺を考えますかっていうの。ずうっと読んできて、あすなちゃんはそういう弱いキャラじゃなかったじゃん。苦手な水泳を頑張って克服したり、河野くんに寄り添っていじめを無くそうと努力したり。芯のある強い女の子だったでしょうよ。それが自殺を考えるとはどう考えてもこじつけとしか思えない。結末ありきで書き始めたんじゃないかな。

そんなあすなちゃんの死を阻止するための、本当のグループの演技がすごいわ。特に河野くんとトモくん。もうアカデミー賞あげたくなっちゃう。電車の旅行の時とか、絶対にやり過ぎてる。ウソのいじめのために真のストップグループが考えたシナリオもすごく入念。何もそこまでしなくてもと思ってしまったのは私だけではないはず。クラスが違うといじめのこともわからないのかな。河野くんのクラスメートたちはどう思ってたのだろうか。みんな、いいヤツ?

こういうところが辻村深月の巧みさというのかな。でも、これはやり過ぎ感がある。だって、登場人物みんなにお芝居させてたわけでしょう?それで、あすなちゃんもおじいちゃんも死なない。何だかずるくない?読者を騙してやろうという意図が見え隠れしてしまった。うーん、これはアンフェアギリギリといったところだろうか。判断が難しい。

迷作なのに名作なのか

これは、私が大人で意地悪な読み方をしているからいけないのであって、普通に読めば高校生たちのキラキラした友情が詰まった物語なのだと思う。恋愛要素もちょっぴりあって、この先の二人が気になるよねーと思いたいところだ。それなのに素直に感動できなくて、申し訳ない。私もこの登場人物と同世代だったら、いつかクンのグループに入れて欲しいよ。私も渾身の演技力で応じるのに。あすなちゃんの自殺の動機を知るまでは、登場人物に肩入れして読んでたんだけどなあ。ミステリーなので、騙されるのはむしろ楽しい。でもね、この物語はスカッと気持ちよく騙されたというわけではないの。騙してやろうという作者の策略を感じるの。

もしかしたら、最初のタイムスリップも辻褄合わせなのかもしれない。または、秀人くんの持つ力がなせる技だったのかもしれない。そこんところを明らかにしない辺りもきっと、作家の力量なんだと思う。こんなに心がモヤモヤする物語に出会ったことがないので、その点では良かった。もう一度しっかり読んで伏線を回収していく必要があるな。そう感じさせた時点で作家の方が読み手の私より何枚も上に行ってるんだ。んー、悔しい。

そうそう、秀人くんといえば、彼女を「ちゃん」付けで呼んでいたのに。いや、呼び捨てにされるような女の子じゃなかった。その辺の騙し方もちょっと姑息に思えた。最後に小技を出してくるのも、またいやらしいんだよな。こんなに不満がいっぱいなのに、忘れられない一冊になってしまった。

秋先生をちらっと登場させるあたりも、さすが辻村深月、ファンの心理を掴んでいるわ。反則で負けたような気がする妙な読後感。

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