シリーズを格上げした作品
オープニング史に残るオープニング
007シリーズといえば、オープニング・タイトルの格好よさも重要な要素ですが、毎回趣向が凝らされているのはいうまでもありませんが、スカイフォールのオープンニングは、それだけで1800円の価値があります。私だけでなく、劇場で観た方の多くが、鳥肌がたったのではないでしょうか。アデルの声量たっぷりでハスキーな迫力のある歌声と、本編にもみられる潔癖さすら感じるほどに徹底されたシンメトリーな映像はもちろんのこと、色調も青がベース中、ポイントで赤やオレンジを使っていて、これはただただ美しいと言わざるおえません。
また、死を連想させる全体の作りも、ダニエル・クレイグの持つシリアスなキャラクターと合っていてオープニングだけで何度でもみれる完成度です。
悪役が強烈
ハビエル・バルデムは「ノーカントリー」での殺し屋役で超人的な恐ろしさを演じ、大きなインパクトを与え数々の賞を受賞しましたが、それとはまた違い、やっていることの恐ろしさはスカイフォールの方がスケールが大きいですが、Mを執拗に追いかけて感情的にはかなりウェットで、ある意味、人間味があります。「ノーカントリー」では、ほとんど喋りませんでしたが、この作品では、ジェームス・ボンドを捕らえた後に登場し、たとえ話としてドラム缶に詰めたネズミの話をするときなど、サービス精神旺盛なんじゃないかと思うほど、効果音など入れて表現している点です。また、スカイフォールに行き、家をものすごい勢いで燃やしているときの「あったまったか」というセリフもユーモアを感じます。
また、何と言ってもシルバ(ハビエル・バルデム)が捕まった後に、Mに対して入れ歯をとって見せるシーンは、作りものだとわかっていても、おののいてしまうような生々しさがあります。そして、Mがその場を立ち去った後に見せる、”イタズラ失敗したわ”くらいのあっさりした表情もハビエル・バルデムだからこそです。
テーマが根源的なものだった
よく言われるのが、マザコンの話ということですが、マザコンの話をここまで大きくしたことがいいのです。シルバが追いかけているのでこの人ばかりがマザコンみたいに見えますが、ジェームス・ボンドも同じです。Mという、(劇中ではMomと呼んでいますが)母的な人物から自立できずに死んだのがシルバ、自立し職務を続けることを選んだのがジェームス・ボンド。まさに、俺がお前で、お前が俺での状態です。
2人とも十分いい大人ですが、2人の孤独な生い立ちだからこそ、母的な存在は大きいというところに現実味を感じます。
時代遅れと認めた先に
Qとの会話や、Mへの審議の際、またはスカイフォールでのシルバのセリフにもあるように、やり方が古いという主旨のことを繰り返し言っています。それ以外にも、MI6の本部が爆破されぼろぼろの地下に移動を余儀なくされたり、ジェームス・ボンド自身の衰えた姿も描いています。さらには、ジェームス・ボンドの愛車までもシルバによって燃やされてしまいます。否定の比喩として、これまでの象徴的なものが次々に壊されます。
しかし、ジェームス・ボンドの生家での戦い方がハンドメイド感があったり、シルバを最後に仕留める道具がナイフだったりするところで、これが007なんだというメッセージが伝わってきます。さらに極め付きとして、最後のシーンでジェームス・ボンドが新しい上司に対する”My presure”というセリフには時代は変わろうが、007は007らしくやるという強い決意を感じます。
また、ジェームス・ボンド自身の生家を派手な戦闘の舞台にしていましたが、生家を破壊してまで、再生を描くというのは日本人にはなかなかない感覚なので文化の違いを感じたシーンです。
どんな時もジェームス・ボンドらしく
半世紀以上やっているシリーズなので、ずっと好調なわけではなく、そのとき流行っていた映画に影響されて宇宙に行ってみたり、スーツがボロボロの状態で戦ったり、ボンドガールが全然魅力的じゃなかったりと他にも色々ありましたが、今回の作品はジェームス・ボンドってこうでしょ、007の個性ってこれだよねということをこれ以上ない形で示してくれたと思います。
007好きの中には、スカイフォールは暗すぎるという感想もあるようですが、50周年記念作品というだけでなく、総括と再スタートということを考えるとこれくらいの重みが必要だったのではないかと考察します。
今後、ダニエル・クレイグが007を卒業して別のジェームス・ボンドが誕生しても、その俳優の個性を生かしつつジェームス・ボンドコードを守っていけば、このシリーズはどこまでも続いて行きそうな気がします。ダニエル・クレイグ版は大好きですが、スカイフォールで一つの区切り、スペクターで発展したところを観れたので、別の俳優でのジェームス・ボンドも今から待ち望んでいます。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)