最後にすべて拾われた伏線
姫川シリーズのスピンオフ作品!
解説にもありましたが感染遊戯はストロベリーナイトなどのスピンオフ作品でしたね。私はそれを知らずに読み始めたので最初にガンテツこと勝俣警部補視点での話が始まった冒頭では驚きました。姫川シリーズでのガンテツは本当に傲慢で下品な発言が多い印象で、近作品でガンテツ視点で話が進んでいく中で実はあえてそうしているとか、本当は心優しい一面を隠している、というような事実があるのかと思いきやそうでもなかったのはなんだかホッとしてしまいましたね(笑)
「周りにいるすべての捜査員は自分の手柄を横取りしようとする泥棒であり、思い通り動かない部下は泥棒以下であり、正面切っては向かってくる愚か者はもはや人ですらない」という発言は、ガンテツらしく個人的にお気に入りです。
また第2部での主人公となっている倉田修二もなにやら聞いたことのある名前だと思っていたらシンメトリーに登場した人物でしたね。このように今までの姫川シリーズとの関連が要所に出てくるところもこの作品の面白い部分でした。今までの作品を読んでいないとピンと来ないのでは?と思う点があるのは少し気になりましたがそれはこの倉田視点の話の中だけでしたね。
短編集かと思いきや複雑に絡んだ長編作品
ガンテツ視点の話を読み終わった後第2部である「連鎖誘導」に入った段階で短編集だと思い込んでいました。それにしては第1部の終わりが意味深だと感じたくらいでした。
しかし第2部でも官僚が襲われる話があり、つながっているのかもしれないという点が気になりながらも2部は2部で完結していたのでやはり短編集かと思いきや第3部「沈黙怨嗟」で、殺人とはいかないまでもまた官僚に関係するような話が出てきました。それが第4部「推定有罪」ですべてつながりすべて一連の犯罪であると気づきました。
気づく人はもっと早く気づけるでしょうね・・。前情報や先入観を何も持たずに読んでしまったので第4部まですべてつながった長編だとは気づきませんでした。よく読み返せばそれらしい情報は小出しされていましたね。
人間はいつでも人間を殺すことができる。
第2部「連鎖誘導/チェイントラップ」に出てきた言葉で、印象に残った部分ですね。
何者かに襲われ、愛人までも殺された松井に話を聞いている場面ですね。愛人が殺されたというのに自己保身に走ろうとする松井に対してあきれながらも自身の息子のことを思い出します。
~幼い頃から優しすぎるくらい優しい子であろうと、両親が持てる限りの愛情すべてを注いで育てようと、人は人を殺すことができる。人間はいつでも人間を殺すことができる。
とても納得した言葉でした。実際に殺人を犯した人も小さい頃はとても優しく、ましてや大人になっても「誠実な人」だと言われている場合もある。小さな綻びやもつれで人は殺人を犯すことがあるということを実感する言葉でしたね。
また、倉田の極端な考え方もとても印象的でした。「一人殺せば原則死刑でいい」という考え方は繰り返し出てきましたよね。それに象徴されるように、息子に対しても「俺たちだけはお前を最後まで信じぬく、そんな台詞は口が裂けてもいえそうになかった」だとか「英樹にも選択肢があるならば死を選べ、そう言いたい」と一見冷めた発言がありますよね。ある意味責任感が強いと感じました。死刑制度に反対していた弁護士が、自分の息子が殺された途端に死刑賛成派になったという話が現実にもありましたが、それが人間らしい考え方のような気もします。しかし倉田は自身の息子が当事者となってもその考え方が変わりませんでしたよね。これは新鮮でした。殺人犯となった息子の扱い方がわからない、という点にすべて帰結しているのでしょうね。連鎖誘導の最後は衝撃的でした。息子の英樹が殺した嶋田彩香の父親に、自分の妻が殺されている。「連鎖誘導」というタイトルにあまりにもぴったりな結末でした。
殺意を蔓延させる方法
感染遊戯・連鎖誘導・沈黙怨嗟ではられていた伏線がすべて拾われ、きれいにまとまった第4部「推定有罪」。辻内が長塚利一の死を知り、中谷公平、岡田芳巳に関しての事件も、まるで自分が引き起こしたかのような表現がありました。しかし加納の供述を聞けば聞くほど辻内とのつながりが見えず、疑問は膨らむばかりでした。
葉山と姫川が過去の出来事である谷川と堀井の件を話しているときに姫川が「堀井がどうやって谷川が官僚であったことを知ったのか」という点に言及しますよね。その点に関しては第3部の段階でも明確にされないままだったので読者としても気になっていましたし葉山もそれが気になる点でしたね。姫川シリーズとは言ってもスピンオフ作品だったので姫川は本当に少ししか出てこなかったにも関わらず作品全体でのキーポイントとなるあたり誉田哲也さんさすがだと思いましたね!
この「どうやって官僚だと知ったのか」「どうやって被害者の住所や顔がわかったのか」という点が事件解決につながりますよね。
裏サイトのようなもので官僚の個人情報を載せ、重要人物として挙げることでその人物に殺意をいただいている者に殺害のチャンスを与える。ネット社会と言われる現代だからこそ起こりうる新しい犯罪の方法で斬新でした。自身が殺意を持っていたとしても自身が手を下すことなく目的の人物が殺害される可能性がある。「僕は殺意を蔓延させる方法を思いついてしまったんだ」。ぞっとしてしまいました。「恨み」で収まっていたものを、情報を与えることによって「殺害」という選択肢を与えることができるということですね。
もはや犯人と呼べるのか難しいところですが、黒幕と呼べる辻内。第1部に出てきた長塚淳や大友麻友がここでこのような形で登場したことは意外でした。すべてはここから始まったのですね。最後は自分が今まで実施してきた方法で自分の情報を与え、自分に殺意を持つものにチャンスを与えるという方法で死を選びました。冷酷な人物だと思っていましたが大友麻友たちとの出来事や彼の抱えていた気持ちを思うと、犯罪者とも言えども切ない気持ちをもってしまいました。
辻内を殺した岡田晃一も「犯人がいつか社会に出てくるなら自分が殺す」と発言しており、その伏線がここで拾われた形ですね。
この国の欺瞞と偽善、官僚の汚さに焦点を置かれた作品でした。政治関連の話であり、その悪事の数々や登場人物の関係性など複雑な部分もありましたが、難しいと思うこともなく、とても読みやすい作品でした。
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