真実を知ることの意味 - 月光の感想

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月光

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真実を知ることの意味

5.05.0
文章力
4.5
ストーリー
3.5
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
3.5

目次

結花の家族の気まずさはなんだったのか?

一番疑問に思ったのは結花の父親と母親の暗さでした。姉の通っていた高校に行き、同じ写真部に入った結花に激しい嫌悪感を表す父親と母親。姉の事故死の事実をもっと知ろうとするはずの父親と母親が腫れ物に触るような態度。読んでいて、これは姉の事故死の真相を知っていてなるべく触れないようにしているのだと後半に進むにつれ思っていましたが結局そのような描写はなかったですね。なぜ結花の父親と母親はこんなに気まずい雰囲気だったのでしょうか。涼子と結花の両親は連れ子同士の結婚ということで、父親だけもしくは母親だけの態度がおかしいのならまだしも両親が涼子の事故死に関して忘れようとしている様子が最後まで不思議でなりませんでした。描写がなかっただけで涼子の両親は涼子の不倫の件や事故現場まで菅井と一緒に行ったということを知っていたのでしょうか。

そもそもこの態度のせいで結花が一人で涼子の事故死の真相を知ろうとして行動を起こしたのですから両親の態度は逆効果だったということですよね。 

羽田教諭は善人なのか。

妻との生活に少なからず不満や自己憐憫を抱え、それが涼子に手を出したきっかけと言っても過言ではないですよね。現実から逃げ出そうとしたことを理由にせず、「心から愛していた」と涼子への愛に曇りがなかったことを何度も口にしていた羽田教諭に鳥肌が立ちましたね。結花が羽田を訪れた時に「いつかは話さなければいけないと思っていた」というよな発言がありましたが、自分の存在を正当化しよう正当化しようとしていましたね。それはまだ涼子が生きていた頃にも表れていました。涼子との関係がなった際に妻との生活を「それでもまだ守る価値があるもの」と言っていますよね。涼子との関係を黙っていることもないよりはマシな誠意として自分に言い聞かせていますが、傲慢な・・。これは涼子のほうから関係を切ることがなかったから関係を継続していたと断言しているようなものですよね。この先どうなっていくのかまったく想像も計画もしていない、性欲にただただ正直な中年の男ですよね。社会的立場よりも彼女を選びたいと少なからず思っていたという部分がありましたが少なからずかい、とつっこみたいですね。

最後の最後に、刑事により真実の報告をされ、激しい後悔や自責の念にかられていたようですが、正直自業自得だろうという感想でしたね。 

各登場人物の抱える葛藤

この作品で印象的だったのは各登場人物の抱える状況、それによる苦悩や葛藤でした。

涼子も突然できた妹を守りたい気持ちや、その妹が親に似ていることを喜ぶ気持ちを尊重したく好きなピアノをやめたりする中でその気持ちを誰にも打ち明けられない苦悩。その苦悩から自分のピアノを褒めてくれ、話を聞いてくれた羽田教諭に心を寄せてしまう。

結花も綺麗で人気者の姉に劣等感を抱いていたと思いますが劣等感を感じないほどの優しさを与えてくれる涼子の突然の死による家族の不調和に苦しんでいたと思います。

羽田教諭もすでに記述しましたが妻への劣等感と自己憐憫に苦しまされ、それにより不倫に溺れてしまいますよね。

事件を起こした菅井清彦も、両親の自殺による将来への不安や焦り。その中で一筋の光となった涼子の不倫現場を見てしまう。そのやり場のない不安を本心では好きな涼子にぶつけてしまう。

また、猿と呼ばれていた香山瞬の菅井に対する激しい劣等感も印象的でした。菅井に対し手強気になれないのもこの激しい劣等感が根底にあるのであろうと思います。菅井を殺害してしまう場面でも菅井に対して優位にたったということを事実だけでは満足せず菅井の口から聞きたがる描写にも強く表れていると感じました。

この、それぞれの登場人物の抱える悩みや葛藤は、形は若干違えども読者にも誰かしらに当てはまる葛藤がありそうに感じました。配偶者に対する悩み、将来に対する不安、特定の人物に対する劣等感というものは誰しも何かしらあるもので誰かの状況に合わせて感情移入して読めるのだろうと感じました。 

菅井の情緒不安定

読んでいてかなり気になった点としては、菅井視点で書かれているときと結花視点で書かれているときの菅井のキャラの違いでしたね。菅井視点の描写ではくだけた会話表現やふざけた心内表現が多くあり決して頭がいいとか冷静さを感じる部分はありませんでしたが、結花が菅井の職場に行きついた場面での菅井のセリフやキャラは冷静沈着というか達観している部分があるというように感じましたね。これは涼子の死を経験してからの変化かと思いましたが、冒頭の、香山初美とのやりとりの部分では菅井視点のときとなんら変わらない汚い表現があったので、そうではないのではと思いました。かなり違和感のあった点でした。 

本当に真実を知ることは無意味なのか

菅井のセリフで、真実を知りたがる結花に対して「普通じゃないやつの普通じゃない理由なんて聞いたって納得できっこない。そんな納得できない理由聞いたって胸糞悪いだけだ」とうものがあります。最初読んだ段階では真実を伝えたくない菅井のごまかしだと感じましたが、考えれば考えるほど「確かに」という気持ちも芽生えてきました。そもそも殺人を犯す人に普通な精神状態の人は少なく、小説になるような殺人事件ならまだしも日々起こっている残忍な事故や事件に被害者遺族が納得いくような理由や真実が隠されているものなんて少ないような気がしましたね。犯人に対して刑事でしかるべき罰が与えられているならば知らないままのほうがよいこともあるのではと思いますね。真実を知ったところで被害者は帰ってこないのは当然のことですが真実を知りたいという遺族の気持ちももちろん痛いほどわかりますね。ただ今回の事件のように涼子の真実にたどり着いて、「不幸な事故死」と思っていたものが、「不倫をし、それをネタに強請られ強姦された末のまるで自殺のとも思える事故死」と判明した時の遺族の気持ちはどうなのだろうかと考えた時に、菅井の言っていることも的を得ていると感じました。 

誉田哲也さん作品たくさん読んできましたがセリフが多く視点がいろいろと変わりながら進んでいくお話はあまり読んだことがなかったので楽しく、珍しい気持ちで読むことができました。残忍な表現や誉田作品でも有名な「グロい表現」がありましたね。よく見かける表現ではその部分が嫌だとか読まなければよかったというような感想も見かけますがそのような表現が混ざることもこの作品全体のしまりだったり悲しさだったりの一部になっていると思うので私は嫌いではないですね。様々な状況や登場人物の気持ちに関して想像しやすく、読みやすい作品でした。

 

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