陰翳礼讃のあらすじ・作品解説
陰翳礼讃は、1995年に中央公論新社より発行された、日本の近代文学を代表する小説家の1人谷崎潤一郎の著作による随筆作品である。 初出は、「経済往来」の昭和8年12月号と翌年9年1月号に掲載されたものである。 本のタイトルと同名の作品の他、「雁のいろいろ」「恋愛及び色情」「客嫌い」など6篇の作品が収められていて、かつての日本家屋の特徴でもあった電灯のない薄暗い室内の造りを引き合いに出し、薄暗さから見出す美の発見、美の芸術の素晴らしさについて述べている。また、このような持論を元に、建築、食器、食べ物、更には、女性の美に至るまで、陰翳をキーワードに様々な考察を著している作品である。 このような芸術観は、現代でも様々な芸術に影響を与えていて、照明デザイナーの石井幹子は著書で、この作品を照明デザイナーの教科書であると述べているほか、ファッションデザイナーの三宅一生がこの作品をヒントに創った照明シリーズのうちのいくつかが、ニューヨーク近代美術館のコレクションに選ばれるなど、世界的にも高い評価を受けている。
陰翳礼讃の評価
陰翳礼讃の感想
明快に指摘された日本の美のあり方の一つ
「日本建築とはどういうものか」「日本人が追求してきた美は何か」こうした問いがある場合に引き合いに出されがちなのが本書である。それまでなんとなく漠然と感じていた日本建築のあり方とか、特徴といったものを、ハタと膝を打つように明快に指摘してくれている。ただしこれはあくまで「谷崎から見た」日本建築の美である。正確と思いつつも、欧米建築が頭にあるせいか、少し特殊な点や、時代による差異、民家以外の大建築などにももっと目を向けて欲しかったと思う。一部で納得するものもあるが、どうしても偏りや一部を誇大しすぎているような気もする。近代の建築の変化を受けて、現代まで至る俯瞰的な立場から見れば、西洋建築でも差や似たような要素もある。一良書としてはともかく、盲信すべき文化論ではないと私は考える。
日本座敷にひそむ影、音、匂い
細雪で関西の風俗を描いた谷崎潤一郎の随筆である陰影礼賛を、建築学入門として読んでみました。現在の電気に頼った生活でなく、昔の電灯のない時代の美の感覚を論じています。純日本風家屋を立てて住まおうとすれば、いかに必要な暖房や照明、衛生の設備をつけたらよいかという命題にぶつかるのである。東洋は東洋で、その発明が独創的だったなら、今の生活はかなり違ったものになっただろう・・・。厠、文房具、蝋燭、吸物椀、日本座敷、能・歌舞伎などの章で、ああでもないこうでもないと、現代の生活では無くなってしまった暗さを無上に美しいものとして捉えているようです。日本的なデザインを考える上で、今の時代にでも一目おかれる作品で、おすすめです。
中々面白かった。
前々から読んでみたかった谷崎潤一郎。偶然本屋さんの建築や照明コーナーに売っていたので「なぜ照明?」と思いながらも買ってみました。表題作の陰翳礼讃を読んで、照明の理由が分かりました。照明や日本家屋について長々と語っています。でもこれは照明コーナーというよりはやっぱりもっと文学的なものを感じさせられました。暗がりにできる雰囲気を表現しているのであって照明を表現しているわけではない、といいましょうか。谷崎潤一郎といえば耽美なイメージがあったのですがこれは耽美というよりも評論だったり日記風で分かりやすく面白かったです。でも随所随所で「陰翳」の描き方がエロティックで綺麗だなぁと思いました。耽美な谷崎潤一郎も読んでみたくなりました。