10年後にもう一度読んでみたい作品です - オルフェウスの窓の感想

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オルフェウスの窓

4.834.83
画力
4.50
ストーリー
5.00
キャラクター
4.83
設定
5.00
演出
5.00
感想数
3
読んだ人
3

10年後にもう一度読んでみたい作品です

4.54.5
画力
3.5
ストーリー
5.0
キャラクター
4.5
設定
5.0
演出
5.0

目次

時間、国を越えた愛の形

池田理代子さんの作品が好きで何となく読んでみたらはまってしまった作品です。ベルサイユのばらもシリアスですが、その上をくるようなシリアスなお話です。

オルフェウスの窓とは何か?

まず、この物語ではとあるドイツ(レーゲンスブルグ)の聖セバスチャン音楽学校の1つも窓にまつわる言い伝えからはじまります。その言い伝えは、その窓からを通して出会った2人は恋に落ち、オルフェウスとエウリディケのように引き裂かれるというもの。そして、沢山の人がこの窓で出会い引き裂かれていきます。主人公のユリウス・フォン・アーレンスマイヤもその母も友達も…でも、みな悲しいだけの感情で亡くなっていないのが印象的でした。

池田理代子さんの描く漫画では『男装の麗人』が登場するのが特徴ですが、この漫画でも例に漏れません。美しい男装の麗人である主人公のユリウスですが、ベルサイユのばらのオスカルとは違い性別が女性であるのを隠しています。その為に沢山の葛藤があります。私たちが普段生活していて考えられないようなことをするので読んでいてドキドキしました。ユリウスはフォン・アーレンスマイヤ家の当主と愛人の間に生まれた子で財産のために男として育てられますが、男子であるという嘘がユリウスの人生を壊していきます。読者はなんで嘘をつくの!カミングアウトしたほうがいいよ!と伝えたくなりますね…

殺人、戦争、性的暴行などマイナスなものを題材にされている話ですので、道徳的にも考えさせられます。最終的に主人公のユリウスは精神異常を起こしてしまいますが、読んでいてとても悲しい気分になりました。ユリウスの愛した人は歴史の授業で聞いたことがあると思うのですが、ボリシェビキの一人です。革命家たちは命を狙われながら国をより良くする為に動きます。

ユリウスの悲しみ、イザークの悲しみ、アレクセイの悲しみ この3つは全て違うものですが、繋がっていて…読者は読んでいくに連れて、音楽学校ではユリウスとイザークはピアノ、アレクセイはバイオリンを弾いていましたが、その頃が1番幸せだったのだと気付かされます。

歴史的背景

はじめに、バイエルン王国のレーゲンスブルグでのお話です。このシーンでは、当時のドイツの経済的な状況、文化などを知ることができました。また、オルフェウスの窓というタイトルからわかると思いますが、ギリシア神話の勉強にもなりました。

場面は、ハンガリー帝国に移ります。オーストリアといえば音楽で有名ですよね。ここでは殆ど主人公のユリウスは出演しないので、モヤモヤしますが、友達のイザーク中心の話で面白かったです。その背景ではイ露戦争・WWCⅠ(第一次世界大戦)が勃発しており、大混乱していた当時の人々の心の移り変わりなども知ることができました。ロシア帝国のサンクト=ペテルブルクが中心に話が進んでいきました。このシーンは、ユリウスの愛したアレクセイの幼少期の話ですが、幼少期から青年になるまでを描くとともにロシアの動きも追うことができます。本当の歴史人物であるユースポフ侯とアレクセイを比較して、2人の人生を描いていくのが面白いですね。ユースポフ侯は、ロマノフ朝に仕えたグリゴリー・ラスプーチンを殺害したことで知られています。つまり、ボリシェビキ、革命家のアレクセイとは敵同士です。どちらにも守るものがあり、信じるものがあり、どちらが悪いとは言えない状況がうまく描かれていて歴史とはそういうものだなと気付かされました。3部でユリウスとアレクセイは結婚しますが、3部最後でアレクセイはユリウスの目の前で殺されますので、幸せだった時期は短いと考えられて、なんとも言えない気分になりますね。

ユリウスがドイツに戻ってきました。当時のドイツは、まだ波立たぬ世には程遠く、大きな反発などはないもののどよっとした雰囲気が流れているのが上手く表現されていました。ユリウスはアレクセイを目の前で殺されたショックでもう正常な精神状態ではなく、人形のようになってしまいます。読者はずっとユリウスをみてきましたので、ひたすらに悲しい気分になります。そして、ドイツまで追っ手がきてユリウスは殺されて物語は終わります。凄まじい人生、そして最後ですが、ユリウスは幸せではなかったと一言では言えないなと思いました。

初めから最後までシリアスで、バットエンドとも言えるような終わり方ですが、色々と考えさせられるお話なので、生き辛くなったら読もうと思う大切な作品です。

ただ、1つ気になるのは1部〜4部までに池田理代子さんの絵柄がガラッと変わることです。池田理代子さんの他の作品で有名なのは、ベルサイユのばらですね。ベルサイユのばらのようなキラキラとした可憐な絵柄が好きな人は嫌だと思う人がいるかと思います。しかし、私はユリウスの悲しみと連動して絵柄が変わっていっているように見えて、これはこれで素晴らしいと感じました。また、続編があるのを知っていますか?続編ではオルフェウスの窓に登場した人物はほぼ出ておりませんが、時代は繋がっているということに気づかされる物語です。

オルフェウスの窓をはじめに読んだのは学生の頃でしたが、大人になってから読んでみるとまた違ったものに感じられました。

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5.05.0
  • ありょーしゃありょーしゃ
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