周囲の人々が支えてくれた再出発の物語 - ステップの感想

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ステップ

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文章力
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ストーリー
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周囲の人々が支えてくれた再出発の物語

5.05.0
文章力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
5.0
設定
3.5
演出
5.0

目次

作品名「ステップ」の意味

重松清さんの作品では「とんび」や「流星ワゴン」など、「父と息子」の関係を描かれた作品を読んだことがあります。この「ステップ」では「父と娘」についてのお話だったので父と息子の話は2冊しか読んだことがないにもかかわらず珍しいなと感じてしまいました。

親子愛を書かれることが多いですよね。

読み進めていく中で娘が保育園、小学校、と進んでいくので、娘の成長を「ステップ」というタイトルで表しているのだと思ったのですが、妻をなくした夫が次の恋に進むまでのステップであったり、今はよく聞くようになった「ステップファミリー」のステップだったりにかかっているそうです。これはとても納得!

「パパの抱っこって忙しい」というセリフがありましたが、なんともいえない新鮮な気持ちになりました。なるほど、というか。残されたのが母親であったならただ愛情表現をするだけの抱っこを自然にできるのでしょうが、父だけとなるとそういう発想にならないのかもしれないですよね。おでかけするときやお風呂から上げるとき、買い物の時など、「必要だから」する抱っこが殆どになってしまうんですよね。これは子供にとっては意識はせずとも寂しいことかもしれないですね。保育園のケロ先生のおかげで、今まで気づけていなかった美紀の寂しさに健一が気づいてあげられたことはとてもよかったです。

こういう、父の成長もひとつのステップなのかもしれないですよね。

 

誰しも子供の笑顔のために一生懸命であるということ

礼香が美紀のひな祭りの写真撮影中に様子がおかしくなって更に棘のある言葉を吐いて途中で写真撮影をやめてしまうシーンに関して、礼香が自身の難民キャンプでの経験をもとに「~あの晴れ着やおひな様のお金があったら、粉ミルク何百人分になるのかな、なんて・・」と写真撮影を止めた理由を話します。

けどそれとこれとは関係ないんじゃないのかなというのが個人的な意見でしたね。

日本のすべての人が七五三のお祝いやひな祭りのお祝いで子供や孫のためになにかを購入するたびに恵まれない子供たちのことを考えて買うのを躊躇してしまう世の中を望んでいるということ?と言いたくなりましたね。偽善者とまでは言わないけどそれを理由にせっかく喜んでひな祭りのお祝いの準備をしている家庭の雰囲気をぶち壊しにするのはカメラマンという職業をしているのに、ちょっとどうかと思いましたね。自分自身の考えは内にとどめておいて職務はまっとうするべきではないかと。

ただその後の健一の「勝ち負けじゃないんだよな、子供の笑顔」はというセリフにぐっときました!どの大人も子供の笑顔のために一生懸命なだけ。

難民キャンプの子供たちの笑顔が見たい礼香も、朋子の残してくれた美紀の笑顔が見たい祖父母もみんな「一生懸命」なだけなんですよね。

 

学校の対応に関して

美紀が学校で「ママは、ずっとおうちにいます」という発言に関して担任教師が「美紀ちゃんが嘘をついた」と断言してしまう場面には憤慨しましたね。「いる」の定義の違いですよね。母の日に母の似顔絵を描くという行事も、家族のあり方が多種多様になった現在あまりない行事ですよね。「父しかいないのは珍しいこと」ということで扱いに困っていることを隠そうとしない教師に関してどうなのだろうと思ってしまいました。ただ教育現場を題材にした作品であればここで熱血教師が出てきたり、ヒーローのような友達が現れたりして見事に解決してくれるのでしょうが、そういうお話ではないのでここでは「父子家庭と学校との関係」に関しての問題になりますよね。実際問題こういうことはよくあるんだろうなあと思いましたね。自身の経験を考えてみても「お母さんしかない」友達は何人もいましたが「お父さんしかいない」という友達には正直会ったことがありませんでしたし。ただ、実際に母の日の絵が飾られたときに天使の輪がつけてある絵を掲示してあり、美紀と友達の会話を伝達した教師も最後には美紀の言葉を「嘘」と言わなかった、というところではうまいこと丸く収まった感ありましたよね。すごくいい場面でした。後半の方仕事のプロジェクトの中で「家族」をテーマに考えるときに健一は「命が集まる場所」といいこと言っていましたね!

 

亡き妻の実家との関係

多くの場面で亡き妻の朋子の両親が関係しています。

朋子をなくした辛さを美紀の存在で埋めようとしている気持ちが伝わってきました。

美紀を大切にすることが朋子にできる唯一のことだと思っていたのかもしれないですね。

ただ健一にとっては朋子の実家の存在感が大きくなることで複雑な思いがあったように思います。「気にせず再婚してね」というような言葉をかけられるたびになんとも言えない気持ちになっていることがわかりますね。みんなが美紀を大事にしてくれて感謝する気持ちがもちろんある中で、しかし再婚してしまったら今までと同じような関係ではいられないことがわかる・・。今特別に再婚したい相手がいるわけではなくても今後のことを考えると色々と思い悩んでしまいますね。

義父母から「再婚していいよ」という言葉があったり「君は私達の息子だ」という言葉があったりするのも義父母はよかれと思って言っているのでしょうが、実際に朋子を介さなければなんの関係もない他人ですからね。難しいところだなと感じました。

ステップの話全体を通して、健一の義父母にあたる朋子の実家の存在感が強すぎるという印象でしたね。各所で出てきますし、義父母の、自分たちが意識していない健一へのプレッシャーがすごかったように感じますね。

 

終始「優しい子」だった美紀

最後のほうに「美紀は優しい子に育ってくれたよ」と余命半年の義父に朋子に伝えてくれるように頼む健一。私も読みながら思いましたが美紀は最初から最初まで「優しい子」であり、何より「いい子」でしたよね。

父と娘のお話ということで、途中で激しい反抗期があり父娘の衝突があったり、または美紀に彼氏ができたり、とそういう話が盛り込まれるものだとばかり思っていたのですがそんなことはまったくなく。幼児期に「母」というワードが出たら癇癪を起こしてしまうということ以外は本当に何もありませんでしたよね。

学校で母に関する嫌なことを言われても「あんたたちのママってしんだらいなくなっちゃうの?」と堂々と話友達を黙らせるなど。再婚相手になるであろうナナさんに対しても体調を崩すほど気をつかったり・・。

だからこそ唯一の反抗はナナさんに会うと体調を崩してしまうことだったのでしょうね・・。

また、再婚するのではあれば自分は祖父母の家で暮らすという発言にもそれは現れていましたよね。父の幸せのために再婚の足かせになるわけにはいかないという気持ちが見え、切ない気持ちになりましたね。

美紀は「優しい子」であり「いい子」であり「強い子」だったというのが個人的感想ですね。

それが健一一人の力ではなく今まで出会ったすべての人々に美紀は優しい子に育ててもらった、という健一の心の声、よかったです。

 

母子家庭は父子家庭の6~7倍ほどの世帯数であり、ステップのような父子家庭はやはり少数派ですよね。ただ父子家庭だからこそ、子育てと仕事の両立での葛藤は多いですよね。実際健一も営業の前線に立って仕事をしたい時期に子育てとの両立を考え残業が比較的少ない総務課にいますもんね。また、学校や世間の理解が低いというのも問題点ですよね。だから父子家庭の場合は実家に頼むということが多くなると思うのですが健一はあくまでも周りに頼りすぎず美紀を育てていますよね。

実際同じような境遇の方(小数だとしても)にとっては勇気づけられるお話だったのではないかなあと思います。

父と息子の関係ならまだ男同士わかりあえる部分も多いかもしれないですが父と娘だと年頃になってくると難しかったりしますよね。ステップでは美紀が小学生までのお話だったのですが、今後ナナさんという新しい母を迎え、美紀が中学生・高校生と多感な時期に差し掛かった時どうなるのかが気になりもしますね!

最初から最後まで基本的には「いい人たち」ばかりが登場人物のお話で、心温まりました。

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