駅という人生の交差点と、人間の心の機微の表現が秀逸 - 終着駅(ターミナル)殺人事件の感想

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終着駅(ターミナル)殺人事件

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文章力
5.00
ストーリー
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キャラクター
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設定
4.50
演出
4.50
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駅という人生の交差点と、人間の心の機微の表現が秀逸

4.84.8
文章力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.5

目次

誰もが感じたことがある同窓会の憂鬱

同窓会が好きだという人はどのくらいいるのだろうか。最近は同窓会と化した成人式にも行きたがらない若者が多いと聞く。

同窓会を頻繁に行うような仲のいい学年・学級もあるかもしれないが、一般的には参加者はどんどん減り、最終的には定例的にも行われなくなる。

本当に仲がいい友人同士は改めて同窓会などしなくても親交があるし、参加しても時の流れで人生観が変わってしまうと、見栄の張り合いになったり、他人と自分との比較に嫌気がさして会いたくなくなるものだ。

成功者はむしろ多忙で参加できないということもあろう。

冒頭のカメさんと旧友の再会はともかく、青森から上京した若者の再会は、お金を積み立てるほどの企画だったようだが、果たして全員が再会を望んでいたのだろうか?もちろん、企画した高校生の時点では、タイムカプセルを開けに行くような軽い気持ちだったかもしれないが。

この作品の事件は、どこか誰しもが持つ同窓会への複雑な心情が読者の共感を呼ぶ。また、今と違ってSNSなどが発達していない時代の作品だが、現代で言うところのLINE誤爆と同様の要素があり、若い世代にも登場人物に感情移入しやすいと思う。

そして誰も・・・

この作品は、アガサクリスティーの「そして誰もいなくなった」に似た形式であるが、舞台としては孤島や孤立した建物ではない。

同一の目的を持った仲間という枠組みでの事件である。一見平凡な若者同士の同窓の集まりなので、連続で殺されるに値する理由があるのかさっぱりわからないため、犯人がつかみにくい。

しかも、仲間内に「次は自分では?」という恐怖を与えるような事件であるのに、全体としては孤立した空間が舞台ではないので、時刻表トリックも大活躍しているという、閉塞感のない仕上がりになっている。

この事件の動機は人によっては稚拙だと思う人もあるかもしれないが、大抵の殺人事件の動機など、傍から見たら稚拙なものではないだろうか。現実世界の大量通り魔殺人なども、動機など到底周囲には理解しがたいものが多く、全く同情できないという点においてはこの作品の比ではない。

しかしそれが本人にとっては殺意を抱くほど重要な問題だった、そんな時に事件とは起きるものである。

加害者の鈍感さへの警鐘

犯人が誰かは置いておいて、作品全体から感じる犯人への西村氏の感情について考えたい。

犯人を絞り込むにあたり重要になるのは、アリバイと同時にどのような心情が犯行の発端となったのかという動機である。

動機には色々あって、自己保身だったり、私利私欲だったり、現状では裁けない悪事への報復だったりと色々だが、犯人への感情は十津川警部やカメさんが読者や著者自身のそれを代弁してくれているように思う。

この作品においては、ちょっとラストは十津川にとっても辛いものとなるが、その終わり方の余韻は犯人を糾弾するものではなく、同情するもののように感じる。

近年、学生のいじめ、会社や組織におけるパワハラなどが問題になっているが、被害者側に同情は集まっても、加害者の側の意識にはほとんどフォーカスされていないように思う。本来、故意でも無意識でも人を傷つけてしまった時に、話し合いなり被害の側の痛みを理解し、謝罪と共に関係を改善する努力をすれば、ことは大ごとにならないのではないか。

人は過ちを犯すことを前提とするなら、いつ加害の側に立ってもおかしくないし、そうなった時に誠実に対応すること、また、加害者にならない努力をすることが大事なのだ。しかし、最近はそうできない人が多く、被害者が自殺してしまう嘆かわしい事例も多い。

この作品のラストは、ある手紙で締められていることで

「犯人への同情と共に、日常何気ない場で加害者になりうる事に対し、鈍感になってはいけない」

という強いメッセージ性を感じる。そこには、西村氏の優しさ、傷ついた側への思いやりがこもっているようにも思う。この作品が刊行された当時は、今ほどいじめやパワハラ、その他の対人問題が表面化して世間を騒がせることなどない時代であったが、この作品はなかなか表に出ない日常の人間同士のしがらみを見事に描いている。

二つの事件の接点

この作品では、冒頭は東北出身のカメさんが高校の同窓、森下と会うことから始まる。その後森下の起こした問題と事件のメインとなる青森の7人組の事件が奇妙に関わってくる。

一見関係なさそうな事件が関わり合いを持つという展開は、ミステリーにはよくあるが、終着駅殺人事件では単に表面的接点を持つだけではなく、7人組の事件が被害の心情にフォーカスしているのに対し、森下の事件については加害側にフォーカスがされているというのが対照的だ。

7人の事件を解決するための時刻表トリックについて、実際に乗って検証することが得意な十津川警部とカメさんだが、今回事件と同じ時間の列車ではない列車で検証してしまったのは、カメさんの性分を理解していた森下の巧みさが勝ったというところだろう。このあたり日頃の慎重さが発揮されなかったことには残念だが、人間はそんなに完ぺきではないし、判断を誤ることもある。

二つの事件の接点については、やや偶然過ぎる感もあるが、偶然もミステリーの内ということで、面白くなっていれば歓迎すべきことだろう

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