クリスマスをテーマに集った6人の作家の作品 - クリスマス・ストーリーズの感想

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クリスマス・ストーリーズ

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設定
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クリスマスをテーマに集った6人の作家の作品

3.53.5
文章力
3.0
ストーリー
3.0
キャラクター
3.0
設定
2.5
演出
2.5

目次

新しい作家との出会いを期待して

個人的には、気に入った本があるとそればかり繰り返して読むか、気に入った作家の他の作品をどんどん読むという傾向があるので、時々新しい気に入りの作家を探すべくこのようなタイプの本を手に取ることがある。共通のテーマでそれぞれ違った作家が違った解釈で綴る物語は新鮮だし、短編なので失敗してしまった時のへこみも少なく、同時に時間の短縮にもなるというメリットがある。
元々この「クリスマス・ストーリーズ」は奥田英朗の名前からたどりついた作品で、他の5人の作家は角田光代以外知らなかった。なので新しい出会いを期待しつつ、それでもどこか試食のような感じで軽く読み始めた。

17才の女の子を持つ母親のクリスマス

奥田英朗らしい歯切れのよい文章で、どんどんテンポよく話しが進んでいく。この話は「セブンティーン」というタイトルどおり、17才の女の子を持つ母親が主人公だ。この娘がクリスマスイブに女友達の家に泊まるという。女親ならではの勘で、絶対に彼氏とクリスマスを過ごすつもりだと感づいた母親はなんとかその計画を頓挫させようと思うのだけれど、同性同士同じことを今までやってきたわけで、そう思うと頭ごなしに叱りつけることができないジレンマを抱えている。自分も年齢こそ違えど、親に嘘をついて恋人と過ごした夜があるからこそ、娘の気持ちも理解することができるからこそのジレンマだ。こういうジレンマは恐らく年若い母親ならではだろうと思う。本当に親に嘘をついて外泊などしたことのない親なら、純粋に叱り飛ばすだろうからだ。そしてその同性として理解できる部分と親としての行動と天秤にかけながら悩みつづける母親の心情が、とてもリアルに描かれていた。
また娘の女友達も同様に口裏を合わせて親に嘘をついているようで、その女友達の母親から家に電話がかかってきたときはドキドキした。どう対応するのか、その仕方によってはかなりの亀裂が母娘の間で生じるのは避けられないだろうからだ。そこはとっさの母親の機転なのか、娘の言葉に合わせてしまったところは意外にも母親像としては理想かもしれない。そこで嘘を暴露してしまったり、向こうの母親と一緒にあわててしまったりすると母親としての信頼は急速に落ちていくだろう。娘の嘘と口裏を合わせることで信頼は保てたし、娘の友人に対しての面目は立ったけれど、クリスマスイブの外泊は避けられない事態になってしまった。イブ当日の母親のあきらめのような、でも甘酸っぱいような気持ちはわかりすぎるほどわかるほどのものだった。
奥田英朗の短編を読んでよく思うのは、独身で男性なのにもかかわらず、どうして家庭を持つ女性の気持ちをここまでリアルに描くことができるのだろうということだ。「家日和」でも「我が家の問題」でもそう感じたけれど、、今回の「セブンティーン」でもそれを感じた良作だった。

重くて嫌な気分のまま進む離婚話

お互いの意見の違いで離婚するなら前向きな話もできるだろうけれど、この「クラスメイト」は、夫の浮気によることの離婚であるため、妻の怒りと哀しみがずっと底に沈殿したまま話が進んでいく重い話だ。角田光代の作品はさほど読んでいないけれど、その暗さが魅力なような印象がある。夫の征生は浮気が本気になり妻の「私」に離婚を求める。当然の気持ちとして、どうしてそっちの幸せのためにこちらが引かなくてはならないのかと怒り、向こうのカップルになにかしらのダメージをあたえるべく離婚には応じなかった「私」だったけれど、徒に日々が過ぎていくうちに怒りが浄化されるのか、征生からラブレターが欲しいというシンプルな要望を伝え、状況を進めようとするのだ。
この設定が若干少女趣味なように思えて少し気持ちが冷めたところもある。ここまで救いようのないまま重く進んでいって欲しかったのに、ラブレターという感傷的なものを求めるのがこの主人公らしくないようにも思えたからだ。浮気の理由を聞けば聞くほど縋る女のようにみっともなくなり、相手の気持ちはどんどん冷めてしまう悪循環にどっぷり漬かりながら、こんな感傷的なものを求めるかなとリアリティがないようにも思えた。
しかし格好の悪い自分に気づいた精一杯の虚勢なのだろうかと考え込んでしまった結末でもあった。とはいえ、その肝心のラブレターが「好きだった ごめん」ではラブレターにさえなっていないではないか。ここは腑に落ちなかった。最後の愛情の証拠さえも壊すこの夫が実に誠意のない極みに感じ、後味が悪い作品だった。
角田光代の他の作品で一番思い浮かべることができるのは「八月の蝉」だ。あれも暗い重いテーマだ。あのようないい意味での後味の悪さがこの作品でも欲しかったところだ。

雪の夜に帰る場所はどこだろうか

この本の4作目となる「雪の夜に帰る」は、妙にリアルな物語だった。これを書いた島本理生という作家は全く知らなかった。なんとなく名前は字面で見たことがあるような…ということさえないくらい全く知らなかったので、どういう物語なのか期待しつつ読んだ作品だ。
この作品は、平凡な女性が平凡な職場で働いている中で起こる小さなハプニングが実に丁寧に描写され、誰にも起こりうることなのにどこか特別な事件性さえ感じさせた。遠距離恋愛をしている主人公である女性は、その相手とはなんとなく倦怠期特有のマンネリが続いており、それが本人さえ気づかなかった隙を生んだのかもしれない。尊敬していた先輩に思いがけなく言い寄られて戸惑うところなどがとてもリアルだった。そしてそれをきっかけに、遠距離の恋人に無性に会いたくなってしまうところは女性なら誰しも理解できるところだろう。
日常のありふれた出来事が小説になっているというのが個人的に好みな上に、結果的に微笑ましいハッピーエンドになったところも気に入っている作品だ。

本人たちにとっては美しいであろう物語

不倫をテーマに描かれたこの作品は、全体的に儚く美しく描かれている。しかしそこにはどこか昭和の女のような、いわば演歌で歌われている女のような古めかしさとか時代遅れ感を感じさせた。今どきこのような古風な女性がいるのだろうか、いたとしてもそこはなにかしらの打算なりなんなりが働いた結果のような気がして、どうもこの物語にはリアリティを感じることができなかった。
いわば男性の夢物語というか、願望をそのまま描いたような感じさえする。ただ主人公である女性の恋する気持ちはよく伝わってきており、確かに不倫といえども恋には変わらないのだろうなと考え込んでしまった。
しかしどうしても本人同士の幸せの裏にある、妻なり夫なりの気持ちを想像してしまうと、本人同士は足元が宙に浮くほど幸せなのかもしれないけれど人としてはどうなのだろうかと思ってしまうのだ。
主人公の女性が不倫していることをひた隠しにし、言い寄ってくる同僚も軽くあしらい相手にしないところなどは本当に男性の夢物語のような感じだ。こういう恋人がいたらいいなという気持ちのみで書かれたような印象の残った作品だった。

6人の作家を全て読んでみて

いつも読んでいる作家でなく違う作家を読んでみると、やはり今まで読んできた作家たちの魅力が際立ち、余計そっちを読みたくなってしまうような感じできたけれど、今回の「クリスマス・ストーリーズ」は短編でもあり、気軽に他の作家たちを楽しめたのが一番良かった。その中で他の作品も読んでみたいなと思えたのは、島本理生だった。この作家が女性なのか男性なのかさえまだわからないけれど、少し調べて他の作品も試してみたいと思う。
そして奥田英朗はやっぱりよかったなと再確認した作品でもあった。

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