オムニバスで繋がる恋と死 - 潔く柔くの感想

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潔く柔く

4.334.33
画力
4.17
ストーリー
4.17
キャラクター
4.33
設定
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演出
4.33
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オムニバスで繋がる恋と死

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
4.5
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4.0
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4.0
演出
5.0

目次

まったく関係ないところから

第1話。先生に恋してしまったらしき、女子高生のお話だった。彼女は、痴漢から守ってもらうためにクラスメイトの男子を呼びつけつつ、痴漢に遭ってでも毎朝見かけたい相手がいた。クラスメイトの男子とは体の関係もあっさり持ってしまって、意中の相手はまるで自分を相手にしていない。好意をぶつけてみるけれど、届いていない。婚約者がいるんだという梶間先生。あなたはどんな人に恋したんですか?

このままこのじれったい恋の行く末を見ていくことになるのかと思いきや、全然違うからびっくりする。梶間先生の恋した相手…とうまくいっていなかった話が入って、おや?婚約者ってハッタリ?って思っていたら、別サイドの人間の話が描かれて、なんだこの脈絡のない話の展開は…と読者を困らせる。そして、このお話は、ハルタの死を経験した、カンナ、朝美、マヤの3人がどうやってその死を乗り越えて新しい恋をするに至ったかを描いていたのだとACT6まできて気づくのだ。

13巻。それぞれの恋は甘酸っぱく、それにちょっとずつ周囲の人が関わって、うまくいったり、うまくいかなかったりする。あー恋って2人だけで完結するもんじゃないのかもしれない。どこかでつながって、影響しあっているのかも。大切な人の死に縛られて動けずにいることは、偉い事じゃない。ハルタが何かをもたらして、遺してくれたもの。短い命でも、かかわった人の数だけ、何かに影響を与えているんだね。その人は1人しかいないんだから、思い通りになる人もいれば、思い通りにならない人もいることを教えてくれる。人生がそういうもんだっていう諦めの気持ち・だからこそ前を向こうとする気持ちが芽生えてくる。

カンナにとってのハルタとマヤ

ハルタはカンナと幼なじみで。好きだったんだ。だから、いつもカンナを守ってきた。カンナの知らないところでも、知っているところでも…薄々ハルタの好意に気づきながら、キスも許して、このままどうするんだろうってずっと受け身だったカンナ。だって好きだったら、飛びつくよね?嬉しいよね?なのに、カンナはハルタを好きにはなれなかった…ハルタもそれが分かっていて、それでもそばを離れたくないから一緒にいたんだよね。答えを聞いてしまったら、終わってしまう気がしたんだよね…。はたから見てるとすごい切ないけど、ハルタはきっと前向きで、そばにいることが幸せだったんだって思うんだ。あの事故で亡くなったことはもう無念としか言いようがなくて、メールを片手打ちしながら自転車になんか乗ってるんだから絶対ハルタ自身の過失なのに、メールの相手がカンナだから…責任を感じずにはいられない。自分が殺したんだって。

マヤは、高校に入ってからの仲良しの友だち。マヤはずっとカンナが好きで、ハルタがカンナを好きだってわかってたけど、自分の気持ちをぶつけた。ちょうどその日にハルタが死んじゃうなんて、反則すぎる。絶対にカンナを選ぶことができないじゃん。会いたいけど会いたくない。誰のせいでもないけど、俺がカンナを選ぶことはきっとハルタを傷つけることになる…しかも、カンナだってマヤを好きにはなれてなかったんだよね。カンナはずっと、受け身で流されているだけの人だった。ハルタを好きになれなかったことを後悔しているだけじゃなく、そんな自分を認められなかったことも、きっと彼女を孤独にさせたんだろうなー。

カンナが見つけた恋

朝美に言い当てられるまで、ずっとカンナは一人だけで考えて、一人だけで悩んで、事情を知った男たちがどれだけ近づいて来ようと、閉じこもって黙ってきた。やっぱり、進ませてくれるのはあの頃のメンバーだけなんだなーって感慨深い気持ちにもなったよ。

一番最初に大切な人を見つけたのはマヤだった。その次は朝美。朝美にいたっては年下でハルタくらいの面影があったなー…みんな、幻影を求めていたわけじゃない。忘れさせてくれる人を選ぶんじゃない。すべてを知って、そばにいてくれる人を選んでいくんだね。

カンナは赤沢禄とくっつくわけで、カンナを陰ながらずっと狙ってきた男たち、赤沢禄を手に入れたかった女たち、どんまい、と思った。それぞれちゃんと恋してる。誠心誠意、ちゃんと意思表示して、思いっきりわかりやすく狙いに行って…玉砕するんだ。カンナの傷を理解できるのも、赤沢禄の傷を理解できるのも、きっとお互いだけ。傷をなめあうのでなく、新たな関係を築いていく、あたたかさを感じる組み合わせだった。

ちょいちょい幽霊が登場して、困らせたりしてくるんだけど、それはきっと…全部夢。自分で呼び寄せてしまった、罪悪感。後悔と苦しみの連鎖だ。もちろん、恋することが、進むこととは限らないだろうけどね。仕事に打ち込むことでもあるだろうし、生きがいを見つけることでもあるだろう。きっとカンナたちの場合は、恋することが進むことだった、って話だ。恋をしなくちゃ、進めなかったんだ。

話を地味につなげる梶間

梶間が主役と思わせておいて、全然違っていたわけだけど、彼がいることによって時代の移り変わりが分かりやすかったよね。各話のつながりをわかりやすくすること。梶間の役割はそういうことだったんだろうなー。ある時は先生で、もう大切な人は見つかっていた。そしてある時は、大事な人と恋をしたのに、追いかけていけるほどの勇気を持てなかった彼がいた。またある時は、大学生で恋や友情・人生に惑う友だちがいて、それを見守ることで、自分の恋愛についても考えている彼がいた…。

なんか、そうやって誰かの大事な恋が、別の誰かに少なからず影響を与えているんだなーとしみじみするよ。梶間もちゃんと成長しているのがわかる。はじめからできたわけじゃないから、高校生を教えていると、自分が青かったときのことも思い出してしまうんだろう。甘さと辛さを知っているから、深入りしてしまうこともあるんだね。

後半はだいたいカンナたちだけで完結してしまうから、梶間のことはほっとかれたのかな…と寂しい気持ちになったが、ちょいちょい彼は存在している。23回は繰り返して読んでおくといい気がする。

視点がばらつくからこそ多様であると知る

恋で成就しようがしまいが、幸せになることはできると思う。悲しい気持ちを経験して、人は大きくなるんだろう。誰かの死を意識して、人は生きようとするんだろう。忘れるんじゃない。確かにその人のおかげで今の自分があるんだ。カンナ・朝美・マヤにとってはハルタの死がキーだったけれど、他の人にとってはその人に恋したこと、フラれたこと、家族だったこと、同じ境遇だったこと…いろいろな関わりポイントがあって、視点は多種多様。決して単一ではないんだと、知っている人といない人では、生き方が全然変わってくるはず。

いくえみ綾さんの作品は、いつも深くて、考えさせられて、ハッピーエンドの中にも切ない気持ちが絶対ある。たまにバッドエンドもあるし、毎回心をぐらぐら揺さぶられまくって最後まで一気読みしてしまう魅力がある。まぁ今作はハッピーエンドを言えるだろうな。きっとカンナと禄は幸せになれる。きっと、小さな幸せを見つけて歩いていける気がする。

大人になってする恋って、学生のころとは全然違った不安定さがある。その分、歩み寄れればいくらでも変わっていける柔軟さも秘めているよね。曖昧なもの、矛盾するものは、大人になるほど理解できる。

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潔く柔くのカンナ

同級生の男の子の死という内容を扱いながらも、重くて疲れるかんじではなく、全体的にふんわりした空気感。でも、ちゃんと切なくて、悲しい。日常的には、笑ってるし、軽やかに生きていけますが、抱えてる胸の苦しさを簡単に忘れることなんてできない。社会的な場において笑う事はありますが、抱えた痛みは心の奥底でいつも疼いています。そんな主人公、カンナについて考えてみました。まず、カンナみたいにモテる女の子の気持ち私にはわかりませんでした(笑)いつも何もしなくても周りに男は寄ってくる。一緒にいても好きな男子はみんなカンナのことを好きになる。嫉妬せずにはいられません。どんなに可愛くて、悪気もなくて性格よくても、曖昧ではっきりしない態度に自分の好きな人が夢中になったりしたら、やっぱりカンナみたいな女の子と一緒にいるのは辛いです。物事はっきり言えばいいのに。そのはっきりしない態度でみんな周りは困ってるくらいに思う...この感想を読む

4.54.5
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