有川 浩の自衛隊3部作と言われる中の海自編
戦うシリーズの海編
有川 浩作品の中で戦うシリーズで行けば個人的にこの作品が一番好きです。
潜水艦の中での特殊環境で繰り広げられるストーリです。
緊迫感がなかなかの読みどころでもある。
敵に関して言えば海の特殊生物、ここもなかなか面白いと言える所です。
有川浩が世にでるきっかけとなった「塩の街」も、なかなかのインパクトではあったが、
それを超えるインパクトがある生物との闘いである。個人的順位でいけば 「海の底」「塩の街」「空の中」の順で評価をしています。
海上自衛隊への取材もしっかりとされている。
海の底の主人公の夏木は海上自衛隊との設定で、海上自衛隊あるあるがいろいろと出てくる。
初めて知った内容もあってこれが中々面白い。軽い自衛隊マニアにもそこそこウケル内容で、女子からすると自衛隊との合コンを一度はしてみたいと思う様になってしまう。
主人公が若い。
この自衛隊3部作と言われる作品は主人公が若いのも特徴で、この「海の底」もはやり主人公とする相手役の森生は、女子高校生となっている。
高校生という年頃が抱えている感情の中の複雑な思い、大人になりきれない幼さ、が随所に表現されている。そこを大人としての隊員の接し方がまた良い感じになる。大人と子供の間が、戦いのあと大人になって行くというお決まりの筋書きではあるが、有川浩らしい観点がとてもぐっとくる感動を味わせてくれる。
人間のえぐみ
私が思う有川浩作品はどの話の中にも「えぐさ」が埋め込まれている。
人の汚い部分であったり、生臭い部分を何処か入れてくる。
「海の底」で言うなら、潜水艦長の腕を冷蔵庫に保管するシーンに表している様に思う。
血の表現であったり、「え!冷蔵庫で保管しとく?」みたいな感想を思うが、
これも有川作品らしさだとも思う。
この腕については作品中に高校生たちも「え!」っと思うが、最後には大人の目と成長した感情から、腕について愛おしさや、切なさ、また命の尊さを実感する事になる所、有川浩らしさだと個人的に思う。
主人公の女性について
有川作品に登場する、主人公クラスの女性には少し特徴があり、どこか影のある少女や女性が登場する。
男勝り的な強気の女性が多いがどこかで「女だ~」と主張する表現が出てくる。
たとえ男勝りであっても身体的には必ず女性なのだ、女性でしかわからない部分がある。いつも思うが女性向けに有川浩は作品を書いているのだろうか?と疑問に思う事がしばしば、男性ファンも多いが女性へのメッセージも痛感するのです。
頑張りすぎず女性は女性である事を認め誇りに思い胸を張って生きていけ、肩に力が入っている間は、男性を超えられない、そして男性を超える必要はない、などと言っている様に思う。この主人公の女子高生が何年後かに、自衛隊の前に現れる最後の場面も、そんな意味がある様に私個人は感じる作品です。
ほっとするラスト
戦うシリーズは戦い終わって平和が返ってくると言うストーリーが普通で、この「海の底」も例外なくこのハッピーエンドで終わるのだが、有川作品の特徴として、もうひと展開ある、これがどの作品も読み終わった後に爽快に幸せ感を感じさせてくれる特徴だと思います。「阪急電車」の作品で有川浩作品を読み始めてファンになった要因もこの最後の爽快さと幸せ感だと思う。
世の中の問題点?
この作品が発表されたのは2005年 自衛隊三部作の最後の作品なので、自衛隊三部作の始めは2003年になる。この時代はまだ、国会でも自衛隊のあり方について今ほど注目されていない時代なのにもかかわらず、自衛隊のあるべき姿をこの三部作で有川浩は書いている様に思う。災害時の日本の自衛隊は助けるだけの急務だが、有川の作品は必ず戦っている自衛隊である。有川の作品は日本の在り方を何処か先に定義しているのではないかと想像する事ができる。自衛隊は戦ってはいけないのか? 社会的問題もさりげなく考えさせられる。
お国のお仕事
自衛隊三部作に共通して言える内容ではあるが、自衛隊と言う国の持ち物が動くだけに、
国の上の方の指示系統がいろいろと出てくる。
一言にややこし! そう思う。 実際の災害時の国の対応もそうなのかもしれない。ふと原発事故の際の国の対応を思う。
少し文章や、ストーリーから離れたりするにも関わらず、このややこし!と言うやり取りは三部作どの作品にも必ず出てくる。
これも有川浩なりに読書に問うているのだろうかと思うが、ここを読み込むまで本当にややこし!と叫びたくなる。実際お国仕事はこんなものだろう。
幼稚な文章
有川作品を嫌う人の中に、文章が幼稚くさいと言われる人がいるが、
私はそうはあまり思わない。
確かに難しい言い回しや比喩の表現が少ないどちらかと言えば読みやすい文章と言える。だからこそ、単純な私にはダイレクトに物語のストーリーと主人公の個性が伝わってくると思っている。
文学書ではないのだから、これぐらいの文章がストレスなくとても読みやすいと私は思います。
「クジラの彼」も併せ作品
「海の底」のスピンオフとして書かれた、短編小説集も「海の底」を読み終えたら、こちらも読むとなかなか面白い。
「海の底」で、主人公の同僚だった冬原が登場し、ちょっと違った角度で「海の底」を感じる作品となっている。
短編集にある「有能な彼女」には、夏木が登場している、これもなかなか面白い。
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