海の底~有川浩~
図書館戦争シリーズで名を馳せた有川浩氏の「自衛隊三部作」のひとつです。
横須賀に上陸した謎の巨大生物、レガリスに立ち向かう人間と彼らの中に渦巻く様々な思い、葛藤、社会的矛盾を描いたフィクション小説です。
読者の多くは潜水艦内に立て籠もった子ども達のそれぞれの境遇やすれ違い、それらを克服していく姿に最も感銘を受けることでしょう。しかし、同時にこの作品は今の日本社会が抱える政治的、社会的欠陥を明確に描き出し、それによって現代を生きる我々がどのような影響を受けているかを訴えかけているといえます。
視聴率目当てにターゲットに群がるマスコミ、自らの地位と保身にしがみつき決断を先送りする政治家、自らの縄張り意識がもとで国難に一致して対処できない警察や自衛隊、そして世間という目に見えない怪物によってゆがんだ価値観を知らず知らずのうちに刷り込まれている民衆など、今の日本社会が抱える闇がありありと描かれています。
しかし、そのような絶望的な状況においても状況を打開するために行動する人間もおり、そうした人が立場や外聞を捨てて協力し、立ち向かうことによって我々は困難を乗り越えてきました。
人間は思想や価値観、生い立ちや見た目が異なって当然の生き物であり、そうした異なる人々が集まることによって社会コミュニティを形成しています。巨大な困難を前にしては足がすくんでしまう人が大半ではありますが、人々はそれぞれの立場から協力し、意見をぶつけ合うことで問題を解決し、よりよい社会コミュニティを築いていくこともできるという人間の可能性に言及した一作ではないでしょうか。
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