異世界で発揮される日本のソフトパワー
いわゆる異世界モノ
主人公が異世界に飛ばされる。基本軸は流行に乗ったものだが導入は絶妙。アミュテックという会社のネット試験をパスして面談へ赴くが、そこで睡眠薬を飲まされて気がついたら異世界へいる。なにか超常現象や、主人公だけが使える謎の力に頼ったものではなく、この時点で計画性を持った組織的なものがあり、つかみが良い。また、異世界での言葉についても絶妙で、聞いていて外国語のように聞こえる。声優の能力が発揮されるシーンを見たい人には大切な部分である。この言語の違いによるコミュニケーション問題は、魔法の指輪で解決される。この点も無理のない設定で見る側のストレスを減らしてくれている。
オタクの夢
自分のオタクの知識で飯が食える。飯を食うためにオタク趣味ができる。そんな世界。現実にそのような職業は少ないのだが、説得力を固めるために自衛隊や日本政府が登場する。異世界の舞台となるエルダント帝国の初設定も、なんの予備知識もなく飲み込める。劇中ではメタ的発言も多く、実在するアニメのパロディが見ている側の没入感を産んでいて、この点は見ていて楽しい。だが、見終わったあとのやるせない気持ちが待っている。没入しているからこそ感じられる。
現実世界で起こっていることの比喩
80年代以降、インターネットの登場から日本のサブカルチャーコンテンツが海外に流れ出ていた。90年ごろからブロードバンドやFTTHの推進により、日本のアニメ動画の拡散が広がり海外に確固たる日本アニメのファンが登場した。同時にコミュニティも登場した。国内で当たり前に行われていた同人誌の作成やコスプレなども海外で積極的に行われるようになった。21世紀に入ってからはSNSの力で簡単に拡散ができるようになり、国内アニメや漫画の海外コミュニティがより強固になっていった。これを、文化的侵略として設定したのが本作であり、侵略という下劣な行為を主人公自身が自らの良心に問い続ける。アニメでは、主人公はアミュテックが推し進める日本のコンテンツの一方的輸出を制限し、エルダント国民が自主的に制作し始めたコンテンツを認め、コンテンツの制作方法自体を教導するという結論になる。これは現実世界で言う日本式ODAのそれで、荒唐無稽な世界観で描かれているが、実態を反映している。但し、クールジャパンに代表されるように、オタクが好むコンテンツに政府が介入して成功した事例は少ない。オタクにとっても政府にとっても夢の世界である。だからこそフィクションとして描く価値がある。
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