『モンテクリスト伯』の根底に流れる普遍的な心情 - モンテ・クリスト伯の感想

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モンテ・クリスト伯

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『モンテクリスト伯』の根底に流れる普遍的な心情

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ストーリー
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設定
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演出
4.5

目次

アレクサンドル・デュマの最高傑作

『モンテクリスト伯』は、邦題を『巌窟王』ともいい、『三銃士』などでも知られるフランスの文豪アレクサンドル・デュマの最高傑作の長編小説です。

後世、世界中で舞台劇となって上演されたり、映画化されて上映されたりしています。

いわゆる、復讐劇のお手本、下敷きとも言って良い傑作中の傑作です。

その物語のスケールは壮大であり、また人生の喜怒哀楽や諸行無常性、浮き沈み、そして復讐や因果応報と言ったすべてのエッセンスが凝縮して詰め込まれ、読者は知らず知らずに作品世界に深く深く引きづりこまれていくのです。

誰もがモンテクリスト伯爵になりうる??

『モンテクリスト伯』の作品世界は、1815年のナポレオンがワーテルローの戦いに敗れて、再び失脚し、アフリカのセント・ヘレナ島に流された直後の南仏マルセイユから始まります。

この時20歳で、希望に満ち溢れ、将来を嘱望されていた若き船乗りエドモン・ダンテスのそれまでの順風満帆の人生が180度反転するところから物語は始まっていきます。

この作品を読んだ人なら誰でも知る通り、ダンテスは、その婚約者であったメルセデスとの結婚式の最中、まさに幸せの絶頂で、悪い仲間たちの悪だくみにまんまとハメられて、無実の罪で逮捕されてしまうのです。

哀れな冤罪者ダンテスは、様々なしがらみが故に、冤罪は晴れず、そのまま地中海に浮かぶ絶海の監獄島であるイフ城塞の土牢に幽閉されてしまうのでした。

普通に考えて、この時点で、通常のメンタルであれば完全に崩壊してしまうでしょう。

誰だっておかしくなってしまうと思います。

爽やかで人を疑うことすら知らなかった陰りの無い人格の好青年ダンテスも、さすがに長い土牢生活が続くうちに生きる気力を失っていきます。

そんなある日のこと、ダンテスはひょんなことから、この土牢の別の部屋に、長いこと幽閉されている住人がいることを知り、その人に会うことが、唯一の生きる希望の灯となるのでした。

様々な工夫を重ねて自分の土牢の部屋から穴を掘って、遂にその住人の土牢へたどり着くと、そこには老人がいました。

老人は、ファリア司祭といって、イタリアの名門の人でしたが、政治的陰謀に巻き込まれ、このイフ城塞に幽閉されていたのでした。

ダンテスは、この万能の知識を持つ学者もあったファリア司祭の土牢へ典獄の目を盗んでは、通い、実に幅広い知識を教わり身に着けていきます。

しかし、ある日ファリア司祭は持病の心臓病でとうとう天国へ旅立つ日が来るのでした。

死の間際に、司祭は地中海のある島に宝を隠してあることを、告げのその宝の隠し場所の暗号のメモをダンテスに渡して息を引き取ります。

ダンテスは、ここで人生をかけた決心と命懸けの賭けに出ます。

司祭の死体と入れ替わり袋に入り、イフ城塞の崖下の海へ脱出したのです。

これを境目にして、エドモン・ダンテスの復讐の鬼としての人生がスタートするのです。

もし、私がダンテスのような目に会い、真実を土牢の中で知ったとすれば、やはり、生きていくモチベーションは自分をこのような目に会わせた悪い奴等への復讐になると思います。

つまり、デュマは、誰の心にも眠っているであろうドス黒い復讐心という普遍的なテーマを実に見事に活き活きと描写するのに成功しているわけです。

もし現代なら?と考えてみると…

小説では、この後、ダンテスは無事財宝の隠してあるモンテクリスト島へたどり着き、見事暗号を解読して、巨万の金銀財宝をゲットして、モンテクリスト伯と名前も身なりも変えて復讐計画へ取り掛かっていきわけですが。

もし、現代に自分に似たようなことが起こったとしたらどうでしょうか?

自分を踏み台にしたり、酷い裏切りをして誰かがのし上がり、自分は理不尽極まりない不遇な身分においやられたりしたとしたら…??

多くの人の場合はまず絶望して自暴自棄になるでしょうが、そのうちに心の奥底にふつふつとドス黒い復讐心が抑えられないほど大きくなってくることでしょう。

それが、現代ではさしずめ、金銀財宝ではなく、宝くじで数億円当たったり、ギャンブルや投機で一獲千金で大金が入ったりといった感じでしょうか?

その時に、私もエドモン・ダンテスのように自分に冷や飯を食わせたり、日陰に追いやったりした奴らに、そのお金を駆使して復讐すると思うんです。

デュマという作家は、『三銃士』にも随所に見られますが、こういった人間の普段は顔をのぞかせない根底にある普遍的な感情や心情を描くのが天才的に上手いストーリーテラーだと思います。

なので、この『モンテクリスト伯』も長い時代を隔てているにもかかわらず、人間の生々しい感情が手に取るように伝わり、小説を読んでいくと知らず知らずに作品世界に自己投影して引き込まれていくのだと思います。

ですから、現在においてもあらゆる復讐劇の教科書(下敷き)となっている作品だと言われる完成度なのです。

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