元教師と少年の友情、そして人間の偏見を鋭く描いた物語 - 顔のない天使の感想

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元教師と少年の友情、そして人間の偏見を鋭く描いた物語

4.54.5
映像
4.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
5.0

目次

チャックとマクラウドとの出会い

主人公の少年チャックは家庭環境が複雑で、妹のメグと姉のグロリアと母親のキャサリンと4人で暮らしているが、妹と姉とは父親が別々で仲は良くなかった。チャックはあるとき顔を含む身体半分に火傷の跡があり山に籠って生活している元教師マクラウドと出会う。チャックは士官学校へ行くために個人授業をお願いする。2人は先生と教師としてだんたんと友情が深まっていくが、町の人たちはそのことを快く思っていなくて、2人の仲を引き裂こうとするというのがおおまかなストーリーだ。少年チャックは「シン・レッド・ライン」や「イン・ザ・ベッドルーム」に出演したニック・スタールで、火傷の跡がある元教師役のマクラウド役はメル・ギブソンが演じている。また、監督もメル・ギブソンで彼の初監督作品となっている。邦題が「顔のない天使」で原題が「The Man Without a Face」となっていて、原題のままのほうがいいなと思う映画はよくあるが今回もそう思った。「The Man」が「天使」にあたるのだろうが、勝手に違う訳をあてはめるのは製作者に失礼だと思うし、視聴者にも嘘をついていることになると思うからだ。しかも邦題がどうしても必要なレベルの英語でもないのに邦題をつけたのは良くなかったと思う。
物語の最初は、チャックが士官学校のパレードで皆から祝福されている夢から覚めると、家族で車に乗って旅行のような雰囲気でどこかに向っている車中から始まる。ラジオの音楽をかけるかかけないかで言い合いをしているところでチャックが気だるそうに夢から覚める。姉がチャックをからかうシーンがあるが、その後もグロリアは何かあるとすぐにチャックをからかう。かなり仲が悪いのだろう。2人の関係の設定でうれしいのはチャックが負けていないところだ。映画の中盤で出てくるが、恋人を連れて家に帰ってきたグロリアが詩集を持っていたチャックをからかったときチャックはグロリアに牛乳をかけてやり返していた。おしゃべりなメグもよくチャックにつきまとっていたがチャックはあまり相手にしていなかった。母親の設定も子育てに疲れている雰囲気はなくて3人の子供たちに対して平等に接していたので、必要以上にチャックに同情する必要もなく映画の本質に集中できたので良かった。
車と共に船に乗ったノースタッド家は船の上でまた喧嘩をし、腹が立ったチャックは自分の家の車の上で飛びまくったりタイヤをナイフで突き刺したりしていた。その時にある車の中から視線を感じたので近づいてみると、マクラウドがいて、そこでチャックは顔半分に火傷の跡があるマクラウドを目にする。

友情の芽生え

チャックは友達とマクラウドが住む岸の近くにボートで遊びに行く。犬が急に吠えたのでびっくりした少年たちは慌ててボードで逃げ帰るがチャックはその時に自分の教科書を置き忘れてしまう。仕方なく1人自転車で教科書を取りに帰ったとき、チャックは焦点の定まらない顔で座り込んで空想の中に入ったままになってしまう。やがて夜になって雨も降ってきたときにマクラウドに声をかけられて家で暖をとらせてもらうところが2人が初めて会話をしたシーンだった。私はここのシーンがとても好きだ。チャックが緊張をほぐしたくて意味のないことをしゃべって笑いかけたり何か質問してもマクラウドはそれには答えずにまず名前を聞いた。マクラウドはチャックを決して子ども扱いしない。そして温かい飲み物を与えて飲み終わったら家に帰るように告げて自分は家の中に入っていく。厳格で嘘やあいまいなことが嫌いだという事が顔の表情や態度やセリフから伝わってくる。チャックもその人柄に気付いた設定となっていて、だからこそ個人授業を申し込んだんだと思う。チャックの表情に最初マクラウドを見たときの怯えはもうなかった。2人の良い演技と演出をみた感じがした。
マクラウドはチャックに対して机に座っての勉強だけではなく戯曲や歴史をお芝居や地図の上の人形の歩を進めたりして教える。教えることが好きで情熱もある。こんな先生に教えてもらっていたらもっと勉強が好きになっていただろうなと思った。
あるときマクラウドと喧嘩して腹を立てたチャックはマクラウドの火傷の理由を友達に腹いせで教えてしまい、その後数日悪夢にうなされるなどして後悔の日々を過ごす。チャックがそのことを打ち明けたときマクラウドはチャックを怒ることはなかった。正直に告白したチャックに対してマクラウドは誠意で応えたのだと思う。喧嘩した時も許した時もそうだが、マクラウドのチャックに対する常に誠実な姿勢にはとても感動した。

本作品のメッセージについて

ある転機が起こる。チャックが自分の父親が自分を捨てて酔っぱらって精神病院で自殺したことを知り、自暴自棄になったチャックはマクラウドの家に泊めてもらう。チャックが1日家に帰らなかったために警察官がマクラウドの家まで探しに来てやがてマクラウドは非公式ではあるが町の会合に呼び出されることになる。静かに平穏に過ごしたいと願ってきたマクラウドにとってかなりつらいことだろうと思う。会合では詰問されるが、ここではもう少しマクラウドが理論的に彼らの偏見を浮き彫りにするシーンであってほしかったが、マクラウドが怒りを自分で抑え込んで彼らの要求を受け入れるという設定になっていた。マクラウドはチャックのために自分がその町から消えることにする。私はこの映画から本当の人間関係とは人を信じることから始まるということを学んだ。初監督としてこの映画を監督したメル・ギブソンの実力はすごいと思う。

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