ベル・エポック(良き時代)を背景に見事にクラシックな映像美の香りがむせかえる、悲痛な恋の物語
このフランソワ・トリュフォー監督の「恋のエチュード」は、悲痛な恋の物語だ。一人の男を愛してしまった姉と妹。いや二人の姉妹の間に立って心揺らぎ、そのどちらとも愛を交わした青年の話だ。
だが、彼のエゴを、彼を不実だと、どうして責められよう。やがて彼は、老いと孤独の深い罰を背負い、帰らぬ青春をかなたに、ひとり立ちつくすのです。
母親同士が旧友であったことから、フランス青年クロード(ジャン=ピエール・レオ)は、アンヌ(キカ・マーカム)と、ミュリエル(ステーシー・テンデター)のイギリス姉妹を知ることになります。
最初パリへ出て来て、ひそかにクロードに惹かれたのは、慎み深い姉のアンヌだが、彼女は眼を病んで、感受性が鋭く自閉的な妹を思いやり、恋のしあわせを譲りたいと願うのです。そのお膳立てでイギリスを訪れた彼は、出会ったミュリエルと恋に落ちるのです。
けれども母親の反対で結婚を一年先に延ばされた青年は、パリへ帰って新進の美術評論家になると、いっぱしの女遊びも重ねて、ミュリエルへの熱が冷めていくのです。そうした頃に、彫刻の勉強にやって来たアンヌと再会し、二人はスイスへ旅して結ばれます。
この一夜で"女"に目覚めたアンヌは、やがて奔放な自由な恋愛に生きる"新しい女"へと変貌していくのです。だが、妹のミュリエルは違っていて、内向的な彼女は、婚約解消の痛手で病に倒れ、のちに姉とクロードの関係を知るとショックのあまり気絶するほど、彼に恋して、恋して、しかも、ひたすら耐えるのです。
彼女がようやくクロードと、ただ一度だけ結ばれるのは、時が流れて、肺を病んだ姉が死に、更に時が流れてからだ。すでに30歳のその夜まで純潔であったミュリエルは、白いシーツを鮮血に染めると、それをわが愛の成就と訣別の証として、外国へと去っていくのです------。やがて風の便りに、彼女は異郷の地で結婚し、二児の母親になったという。
それから15年、今クロードは、うずく思いで、失われた愛の重みをいとおしむのです。孤独------。もはや青春は遠いのだ。孤独------。つきせぬ郷愁に哀怨そくそくと迫り、痛恨の余韻の情が切なくあふれてくるラストなのです。
第一次世界大戦前の、いわゆるベル・エポック(良き時代)の風俗風景に、見事にクラシックな映像美の香りがむせかえります。本質的・精神的には、ともに禁欲的であった美しい姉妹の恋情の姿が、あわれなら、二人を愛した男のエゴイズムもまた、あわれだ。そして、全てを包んで消えた青春もまた------。
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