この一本じゃもったいない、まだまだ続きが観たい作品
まず感じたのは、キャスティングの違和感だった。
私がこの映画を観ようと思ったときにまず感じたのは、キャスティングの違和感だった。
「(永遠の独身貴族である)福山雅治が父に?」
「(子供を夫に世話をさせて女優に邁進している)真木よう子が母に?」
二人とも色気のある役を演じたら日本一だろう。それをわざわざこういう役にする必要があるのか。
正直を言うと、笑ってしまった。二人はあまりにもそのキャラクターで有名だからである。
しかし次の瞬間には、それだけ「あるべき親像」から対局である二人が演じるとどういうことになるのだろう?という興味にも変わった。そうか、今は父ではない。そして、父になる。そこを観てみようじゃないか。それが映画を観るきっかけとなった。
だがこれはコメディカルな映画ではないな、と思わせたのは、脇を固める尾野真千子とリリー・フランキーのペアであった。
(その二人の夫婦のペア自体、最後まで違和感があったのだけれども。)
はっきり言って尾野真千子は地味な顔で田舎っぽいと思う。真木よう子が都会のマンションに似合うのになぁと感じた。あの役では真木よう子のほとばしる魅力がもったいなかった。この映画を観て脚本の妙と子役の演技に泣いてしまったが、やっぱりそこは違和感として残る。その「妻の入れ替えバージョンでも観てみたいよ」と、視聴中何度も思った。
対局な二つの家族、現代の都会の家庭への問題提起
野々宮家の父、良多(福山雅治)は嫌らしいほどこの映画の中で、残念な夫に描かれていた。都会ではありふれた光景かもしれない。ごく一部で残るエリートで仕事人間の父親と、今時の高層マンション。そこに籠城のように飼われた妻と、成功の道を投影された押しつけがましい教育を受ける子供。本当に家族が何を自分に求めているのか、慶多は気づく時間を全然取っていなかった。
そういえば、人気ドラマとなった「残念な夫。」もありましたね。
一方、斎木家の父、雄大(リリー・フランキー)はそんなに適当でいいの?というほど人情深く、家族想いである。どちらが正解というわけでもないと思う。
私自身も都会の進学校の高校を卒業した。その高校時代の友人たちと同窓会で会って話しても、やはりこのように良多のようになってしまいそうな人もいる。一方、雄大のように家族や地元を大事に努めているフリーランスの友人もいる。マチャファンの独身貴族もいる。
地位も名誉もお金も家族も大事。どれも大事。
どれかだけに偏ってはいけないんじゃないのかい?是枝監督は、そんなことを問題提起したかったのだろう。
妻の立場から言うと・・
都会の企業で働くオトコ30代~40代は今も企業戦士。この映画は昔以上に勝ち組や負け組が顕著になり、そもそも勝ちにも負けにもこだわらない、「ゆとり」だとか、「さとり」だとかの世代が出てきている前の最後の世代に向けたメッセージなのかもしれない。
それを、堺雅人とか、単なるいい夫風な役者が演じてたとしても当事者にはピンと来ずにスルーされていたかもしれない。
その世代のだれにとっても「カッコイイ」福山雅治をキャスティングすることで、「子供の取り違え」というありきたりで地味な設定のこの作品に惹きつける必要があったのだろう。
良太(福山雅治)は今の時代のオトコの痛さをうまく演じていた。
私の家も同じように子供が幼い時に夫は働き尽くしで、育児は妻である私に任されていた。みどり(尾野真千子)のように、勝ちも負けもない家庭の中では、ただゆっくり会話をしたり、食事をしたり、習い事の話をすること、家族で河原でピクニックをすることが一番の望みだった。
とはいえあのようなガサツで品がない家庭がいいというわけではないし、仕事ができる能力をもっている人ならば、イクメンなだけではなくて稼いでも欲しいし、子供の教育だけに専念できる環境があれば望ましいのだけれども夫婦の絆も欲しいし・・。というよくある主婦の投影でもあったのかもしれない。
本作品だけではもったいないのでは?
残念だったのは、雄大の気持の変化や課題に対してはあまり入りこまず、善人で終わらせようとしているところ。
この映画のラストは、はっきりとした未来は描かれなかったけど、せっかくだから「夫婦の交換」とか「住まいの交換」とか「仕事の交換」をしたら続編シリーズとして長くファンを惹きつけるかもしれない!?
それは冗談だとしても、日本が誇るロングセラー作品、「北の国から」のように子育てしながら親が育っていく話を描き続けたら見続ける人は多いのではないだろうか。
あるいは、例えば良多が
鬱になる
リストラされる
会社が潰れる
妬まれて降格する
そんな現代の病と合わせて続編を描いたら、織田裕二演じる『踊る大捜査線』のように、10年でも続けることができるだろうし、社会問題への定義もできるし、いいオトコである福山雅治の苦悩の表情はもっと観たい人が多いのではないか。マチャも、田中邦衛のように年をとっても演じ続けるのである。
子役や役者たちの成長も含めて、末永く観たい作品である。是枝監督、続編はいかがですか?
「そして、祖父になる。」なんて。
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