自分の中の父性に気づくための試練
父になるタイミング
女性は子どもをお腹の中で育て、そして産むことから子どもの親になるスタートが男性よりも早いです。この映画でも、女性陣はすでに子どもの親として子どもとの今後の関係に悩みますし、母親同士お互いの気持ちを理解し合っています。子どもを交換しようと決断する時、成長とともに自分たちに似ないで育つということに耐えられるかと良多は問いますが、母親たちはそんなことは問題ないと、血にこだわる父親だけが考えることだと考え自体否定します。仕事人間が悪いわけではありません。家族のために頑張っていると思いますし、自分のやりがいを大切にすることは至極当然のことです。良多の何がいけなかったのか。それは全てを自分と同じ位置で見て、他人の粗を許容できないことです。簡単にいうと、自分は何も悪くないと確信しているところが親としていけなかったんですね。というか、それがあるから形だけの父親止まりで成長がまるっきしなかったんだと思います。父親になるというタイミングは人それぞれなんだなとこの映画で改めて思いました。あくまでも血縁関係あっての親子だと良多は思っているのですが、いなくなった慶多がどれだけ自分に愛情を持っていたか、父親として慕っていたかを写真を通して実感します。授業で作った父の日のプレゼントの花が壊れて、茎だけになっているのを見て初めて子どもという絶対的な存在に気付かされるんです。それを徐々に紐解いて、時には目をそらし、開けるかどうか迷いながらも最後はやっぱり子どもとして家族として大切にしてきた想いが鮮明に自分の胸に帰ってくる。そんな時間が淡々と流れる芯の深い映画だなあと思いました。
吉田羊さんの存在
これまた本当に少ししか出番のない役なんですが、エンドロールにしっかりと名前が載っていました。映画の始めの方で、夕飯を何頼むか先陣切って仕切っているポニーテールの女性が羊さんです。さりげなさすぎて思わず二回も見てしまいました。羊さんを探せ!大会が私の中で密かに行われたのですが、2度3度見直してもわからず、結局インターネットで調べて登場シーンを把握し、半信半疑のまま再度映画を見て確認したところ、確かにあれは羊さんの声でした。顔ははっきりと確認できませんでしたが、きっと羊さんです。あの短いワンシーンだけしか登場させないなんて、羊さんの贅沢使いはやはり売れっ子になる前だからできたことでしょう。しかし、今回初めて知りました。売れる前の俳優さん女優さん探しは楽しいですね。ちなみに、井浦新さんも研究員として本当に少しだけ登場していて、これにもびっくりしました。研究員の淡白な受け答えが井浦新さんっぽくて割と好きです。
真木よう子さんの庶民的な姿
タバコ吸ってます。裁判のあと、大人四人で喫茶店でのシーンで真木よう子さんタバコ吸ってました。そしてお弁当屋さんのパート姿も少し違和感を伴いながら、もう少し派手に若作りした格好であれば結構いそうなママさんで馴染もうとしている様子で落ち着きませんでした。ご自身の美しさと役での庶民感のギャップがゴワゴワしていて初回は話に集中することができませんでした。しかし、芯のしっかりしたお母さんだなあと交換お泊まりが始まった頃のシーンで思いました。仏様のお手伝いをお願いしたり、子どもと同じ歩調で気持ちに寄り添う接し方がとても暖かく感じました。とばっちりで子どもが入れ替えられてしまったわけですが、元看護師に対して怒りを露わにしている様子はなんだか安っぽかったなあと少し残念に思いました。裁判の後、あれだけ怒れるのかなあと我が身に置き換えて考えて見ました。きっと無理です。私なら泣きじゃくって相手に噛み付いて取り押さえられて即退場していたと思います。この裁判後のシーンは呆気なく感じました。真木よう子さんの服装が若いんだか若作りなんだか庶民的なのかただセンスが無いだけなのか、よくわからない感じでしたが、それはもうあえて鋭いツッコミを避けるために曖昧にしたのかなあと。とりあえず、騒ぐほど服装に関して指摘する意味がないなあと思いました。でも真木よう子さんに似合ってたかどうかと聞かれると、これも有りだと私は思いました。
子どもが似てない
慶多は真木さん似でまあ納得はするんですが、琉晴はいったい誰に似たのだろうと疑問が残ります。良多が昔の自分の写真と琉晴の写真を比べているシーンがあるのですが、あまりちゃんと写さずよくわかりませんでした。良多の様子で察してね、という撮り方なんですが、今後良多に似て行くのか不安になる程似ていません。寄せてすらいません。と思ってしまいました。決してイケメンびいきでは有りませんが、あの少年が将来福山雅治になるなんてどうしても思えないのです。他の方の感想を見てもやはりみなさん同意見で、キャスティング事情があるのかなあと、これまたなかなか物語に入り込めない要因になっています。しかし、子どもたちが可愛いのは間違いありません。4回目の面談で、琉晴が大人たちの会話に戦いごっこを持ち込み、端から大人たちを攻め倒して行くシーンはとても好きです。そしてそのあとはアドリブでしょうか、末っ子坊主くんまで参戦してくるではありませんか。もう萌え死ぬんじゃないかというくらいキュンキュンさせられ、何度もそのシーンだけ見てしまいました。あれは反則的な可愛さです。子どもの可愛さがぎゅっと詰まったこのシーンがあるからこそ、自分の子どもの存在の大きさ、それに比例して大きくなる愛情を実感できるなあと思いました。本当に些細なことでも子どもだととんでもなく愛おしく思えてしまうんです。生まれてから6年間自分の子どもと思ってきた愛情に嘘はありません。それに気づけた良多、気づかせた慶多。表面だけの親子ではなく、本当の親子になれてよかったと思いました。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)